誰もが放射性物質を口にしている。本当にそれでも大丈夫か?

前回、「ある程度の放射線量がある食べ物も気にしない」という穏健派に向けて、「ある程度」の基準を議論していきました。しかし、一方で厳格派の中には、まだ納得できない方もいるのではないでしょうか。今回は、厳格派の細かな反論もすでに織り込み済みであるということを、社会学者の開沼博さんは丁寧に示していきます。

厳格派とも大きな見解の相違がないストロンチウム

 厳格派の方の中には、「セシウムだけじゃなくてストロンチウムとかも出ているんだと聞いた」とか、「検出限界値以下でもセシウムは入っているんだから危ないはずだよ」とか、穏健派の人が「漠然とした不安」を感じそうな小ネタを出してくる方もいますが、ここまでの議論は、そういった初歩的なレベルの議論は全て織り込み済みです。

 まず、「セシウムだけじゃなくてストロンチウムとかも出ているんだと聞いた」について。
 例えば、ストロンチウムは、ここまでのコメに関する議論では考慮する必要はありません。
 たしかに、福島第一原発事故によって、ストロンチウムはセシウムと同じくらいできたとも言われています。しかし、大気中に放出されたストロンチウムは、そのセシウムの量に比べればごく微量であったことは実際に様々な調査から検証されてきました。

 そういう結果になったのはなぜか。ストロンチウムがセシウムほど空気に乗って飛散する性質を持ってないからです。具体的に言うと、セシウム137に比べて、多い場合は数百分の1、少ない場合は4000分の1ぐらいしか飛散していないという検証結果が出てきています。
 例えば、2011年11月時点で、日本原子力研究開発機構が「放射性セシウム-137 と放射性ストロンチウム-90 の経口摂取による内部被ばくについて」という文をまとめていますので、もし詳細を知りたい人は御覧ください。

 例えば、原発の爆発によって赤と白の風船が飛んだとイメージしてください。原発の建屋の中には赤の風船と白の風船が半分ずつ入っていたとしましょう。
 赤の風船はヘリウムガスが入っていて飛んでいきやすい。白の風船はヘリウムガスが薄くてあまり飛ばない。赤の風船は爆発と同時に一斉に風に乗って飛んでいった。赤の風船に混じって白の風船も飛んでいってないことはないんだけど、白風船が1個あったら、そのまわりには赤風船が数百個から4000個ぐらいある状態です。

 逆に言うと、白風船だけ100個飛んでいる場所に、赤風船が数個しかない、みたいなことはあり得ません(もしそういう状況が、つまりストロンチウムだけ濃度が高くて、セシウムがほとんどないような場所が見つかったら、これは福島第一原発事故由来のストロンチウムとは単純には考えられません。何らかの別の理由でそこにストロンチウムが蓄積された可能性を含めて原因を検証すべきでしょう)。

 ということは、そもそも、セシウムの量が分かっていて、それ自体が少ない状態(=赤風船の数自体が多くても数十個しか見当たらないくらいに少ない)なのであれば、ストロンチウムの量は極めて少ない(=白風船はほとんどないかあっても1個程度)ということです。
 セシウムと同様にストロンチウムにも毒性はありますが、極めて微量でほとんどその毒性が身体に影響を与えることはないと考えられます。

 コメや野菜・果物のような田畑でとれる作物に限れば、この「ストロンチウムの割合」や「ストロンチウム自体への注意の仕方」については、立場を問わず、一定の科学的な合意がとれていると考えていいです。つまり、厳格派が信頼するような専門家でも、そうでないような専門家でも、データをもとに思考する科学者である限り大きな見解の違いは出ていません。

 ストロンチウムについて、気をつけるとするならば、その水に溶けやすい性質の部分です。ストロンチウムは空には飛ばないけど、水には溶けやすい性質があります。

 では、水にどのくらい溶けているのか。特に、現在、福島第一原発の周辺にある汚染水の中にどのくらい入っているのかという問題があります。これがわからないと、廃炉作業がなかなか進まない原因にもなります。
 なので、最近もストロンチウムを効率よくはかっていくための測定器が開発されて、日本経済新聞の記事「放射性物質ストロンチウム、20分で測定 福島大が汚染水分析」でも報道されたりしています。

 現在、福島第一原発では汚染水を組み上げてタンクに詰めて、そこからセシウムやストロンチウムなどの放射線物質を取り除く「ALPS(アルプス)」という機械を動かす作業が続いています。まだこれは不安定な状態が続いていますが、今後の動きが注目されます。

検出限界値ギリギリの物を食べ続けても、セシウムはたいして増えない

 あともう一点、「検出限界値以下でもセシウムは入っているんだから危ないはずだ」という話。
 これも「ものさし」を持っていない状態で「危ないはずだ」と断定して、「漠然とした不安」を抱き続けるのは不毛です。
 これまでの3年間でわかっているデータから読み取れる範囲で言えば、仮に検出限界値ギリギリの食べ物を摂取し続けても、その人が摂取する放射性物質が3・11以前の日常的な範囲を超えて飛躍的に増えるということはありません。

 既に多くの人が聞く定型句になっているでしょうが、私たちは日常的に内部被曝も外部被曝もしています。世界平均で、内部被曝は、1・5ミリシーベルト、外部被曝は0・9ミリシーベルト、合計2・4ミリシーベルトと言われています。
 当然、これは原発事故がなくても、普通に生きていれば受ける被曝量です。

 内部被曝をするのは、
・空気中にあるラドンなどの放射性物質を呼吸しながら取り込んでいること
・あらゆる食品の中に入った様々な放射性物質を食べ物から取り込んでいること

という理由があります。

 私たちは、放射性物質が入った食べ物も毎日必ず食べています。例えば、パン・バナナ・牛乳の朝食があるとしましょう。これにも必ず、放射線を出す「放射性カリウム」という放射性物質が含まれています。
 放射性カリウムの摂取量の目安はだいたいこんな感じです。

・食パン(スライス2枚140グラム):4ベクレル
・バナナ1本(120グラム):13ベクレル
・牛乳コップ1杯(200ミリリットル):10ベクレル

 合計27ベクレル、朝から食べていることになります。
 ごはんだって同じように、放射性カリウムが入っています。
・ごはん茶碗一杯200グラム:6ベクレル

 では、放射性セシウムがこのごはんにどれだけ入っているのか。
 仮に、放射性セシウムが検出限界値ギリギリの20ベクレル/kgのコメ(玄米)だとしましょう(実際は、20ベクレル/kgギリギリのコメなどほとんどありません。ほとんどが数ベクレル以内だと考えていいです。無理に20ベクレル近くあるコメを探そうとしても大変な苦労をすることになるでしょう)。

「20ベクレル/kg」というのは、1kg=1000gあたりで20ベクレルだということです。なので、200グラムだとするならば、放射性セシウムの量は4ベクレルになります。

 ただし、これは玄米をベースにした値です。前にも述べたとおり、白米になり炊飯された時点でセシウムが10分の1になるので、0.4ベクレルです(これ、実際は水を加えているので茶碗いっぱい200グラムよりも増えて250グラムとかになります。なので、200グラムとするならば、さらにベクレル数は減りますが、今回は話がわかりにくくなるので無視します)。
 ということなので、この場合、放射性カリウム:放射性セシウム=6:0・4=15:1です。つまり、放射性カリウムのほうが15倍含まれていることになります。
「被曝量が日常的な範囲を超えて飛躍的に増えるということはありません」という意味は、そういうことです。

食事に含まれる放射性物質や被曝の量はゼロにならない

 ただ、それでも不安を持つ方はいるでしょう。例えば、こういう指摘をする人もいます。
「でも、例え、カリウムがセシウムの15倍だとしても、セシウムは危ないと聞きました。なぜなら、カリウムは元から体内にあるけど、セシウムは震災後に出てきたものだから」

 たしかに、このものの見方は間違いありません。「だから、私はセシウムを限りなく減らすように食事に工夫したりしています」という方が多くいるのもよくわかっています。 
 先の言い方だと、厳格派の方ですね。それは一つの選択です。

 一方で、こういう説明をしてくると、「なんだ、元から体内にあるカリウムに比べれば、セシウムって、断然少ないのだー。じゃあ、気にしないでいいかな」。 
 こういう見方もあります。穏健派や容認派の方です。

 それで、ある時、聞いたことがあります。「じゃあ、どのくらいなら気にしますか」と。
 そしたら「元から体内にあるカリウムの量を超えるぐらいになったら」と言うのですね。
 たしかに、10倍になっているとかだとヤバそうですが、別にカリウムがあってもなんともなかったのだから、それと同じくらいの量が増えてもまあいいか、という感覚は理解できます。
 これについて、考えてみましょう。

 関連するデータや参考になるテキストは少し検索すればいくらでもでてきますが、例えば、「食品中のセシウムによる内部被ばくについて考えるために」という文書がまとまっていたので、これを参考にしてみます。放射性カリウムと放射性セシウムの関係が詳しく出ているのですが、「わかりやすい」と書いてあるもののやはり難しいかとは思います。
 それで、「元から体内にあるカリウムの量を超えるぐらいになったら」の答えの部分がポイントですが、こう書いてあります。

「一日平均で 30 ベクレル程度の放射性セシウムを摂り続けると、体内の放射性セシウムの量と放射性カリウムの量が(ベクレルで測って)だいたい同じになる」

 つまり、さきほどの「ごはん茶碗一杯200グラムあたり、放射性セシウムが0.4ベクレル」という例で言えば、30ベクレルに至るためには、毎日ごはん茶碗75杯分を食べる必要があります。現実的にはあり得なそうですね。
 現在、福島で生産され、検査をされているものを食べ続ける限りでは、元から体内にある放射性カリウムが出す放射線の量をセシウムの量で超える状態にするのは、極めて不可能に近いといえるでしょう。

 いずれにせよ、放射線を巡る議論の中で「ゼロベクレル」「ベクレルフリー」という言葉が使われることがありますが、仮にセシウムを限りなくゼロにしても、その食事に含まれる放射性物質や被曝の量がゼロだったりすることはない、ということも含めて理解しておくべきです。

 さて、ここまでは「放射線の検査体制」や「放射線量の基準の考え方」「日常にある放射線との比較」など、いわば「行政側・測る側」について触れてきました。
 ここからは視点を「現場サイド」に持ってきて、「じゃあ実際、福島では“日常の食事”とか“体への影響”はどうなっているのか」ということを、データを用いながら簡単に触れていきましょう。

日常の食事に含まれる放射線量を知る

 まず、実際に「日常の食事」の中にどのくらいの放射線量が含まれているのか?
 日本生協連が「家庭の食事からの放射性物質摂取量調査」というのをやって、その結果を公表しています。
 結果は明確です。ポイントは以下のとおりです。

・435サンプルのうち、放射性セシウムで1ベクレル/kg以上が検出されたのは7サンプル
・最大値が3・7ベクレル/kg、平均値が1・8ベクレル/kg
・1ベクレル/kg以上検出する食事を継続して食べ続けている可能性は、極めて低い

 さらに、先に触れた放射性カリウムについても、言及があります。
・放射性カリウム(カリウム40)は、全てのサンプルから検出され、8・8~68 ベクレル/kg、1年間の内部被曝線量は0・034mSv~0・39mSv
・放射性セシウムの最も高かったサンプルが3・7ベクレル/kgだったが、仮にこの食事を1年間継続して食べ続けた場合、食事からの内部被曝線量は0・032mSv

 つまり、基本的には、普通に調理した食事を食べていても、放射性セシウムは1ベクレル/kg未満。一方、放射性カリウムは毎食その10倍以上体内に入ってきているということです。

 もちろん、「それでも、放射性セシウムが嫌だ」という気持ちを抱く人もいるでしょう。放射性カリウムのような日常的にあるものはいいが、日常的にない放射性セシウムは微量でも嫌だと。
 たしかに、放射性カリウムだけなら、生まれた時からあったが、それと同時に、放射性セシウムまで体内にとどまるようになることは避けたいという声も実際にあります。
 ただ、実際の「日常の食事」の中における放射線量は、福島の食材を使っている家庭も含めて、限られたものだと言わざるを得ません。このような状況がデータからわかってきたのは事実としてご理解ください。

大規模調査では県民99%から放射線が検出されず

 では、このような食事をとった「体への影響」のデータはどのようなものがあるでしょうか。
 最も大規模な調査は、東京大学理学部の早野龍五さんらによる調査で、論文にまとまっています。ただし、英語なので、無理に読まないでいただいて大丈夫です。

 ポイントは、以下の2点です。
・ホールボディカウンターで福島県民約2万4000人の内部被曝の状況を調べた結果、99%の人が検出限界値以下だった
・福島第1原発から西約50キロの福島県三春町の小中学生1383人を同様に調べた結果、一人も検出されなかった

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俗流フクシマ論批判

開沼博

311福島第一原発事故から3年以上経ちますが、今フクシマはどうなっているのでしょうか? いまだ具体的な数字や実態に基づかない情緒的な議論が溢れる中、この連載の目的は、フクシマの問題について「論理とデータを通した議論のベースの再設定」す...もっと読む

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kokikokiya 俗流フクシマ論批判 開沼博 https://t.co/DRyvhiES4T なので、最近もストロンチウムを効率よくはかっていくための測定器が開発されて、日本経済新聞の記事「放射性物質ストロンチウム、20分で測定 福島大が汚染水分析」でも報道されたりしています 3年以上前 replyretweetfavorite

kokikokiya https://t.co/DRyvhiES4T 厳格派とも大きな見解の相違がないストロンチウム 検出限界値ギリギリの物を食べ続けても、セシウムはたいして増えない 大規模調査では県民99%から放射線が検出されず 5年弱前 replyretweetfavorite

niji_wo_mita  そういえば、というくらいに意識せず暮らせるようになってた。というところで偶然行き当たった良記事。 約5年前 replyretweetfavorite

milessmilejazz 俗流フクシマ論批判、これ分かりやすい! https://t.co/VkkNAtKnYl 5年以上前 replyretweetfavorite