清野とおる【後編】今回、僕は「赤羽」に勝負を挑みます

赤羽の街を舞台とした清野とおるさんの大人気ノンフィクション・エッセイマンガ『東京都北区赤羽』がこのたびドキュメンタリードラマ化。『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京)として絶賛放送中です。後篇はポスト赤羽になりそうな街から、番組の裏話、清野さんが変な人に惹かれる理由、今後チャレンジしてみたいことまで、ざっくばらんに聞いてみました。

担当編集者の太鼓判!

くよくよ悩んでいる時にこの漫画を読めば、悩みなんかふっとびますよ。呑みたい時に呑み、寝たい時に寝て、歌いたい時に歌う、自由に生き散らかしている赤羽人たちの生命力の逞しさに、元気をもらえます。そしてこの漫画を読むと生きる希望が湧いてくる最大の理由は、仕事が無くなりほぼ無職になってしまった作者の清野とおるさん自身が、赤羽の力によって漫画家として復活する物語だからなのです。

(双葉社 平田昌幸)

赤羽と同じニオイを感じる街・蒲田

— 最近、赤羽以外に気になっている街はあったりしますか?

清野とおる(以下、清野) 蒲田です。この間、赤羽在住のコラムニストの小田嶋隆さんと『新潮45』で対談したんです。あの方は赤羽生まれ、赤羽在住なんですが、そんな小田嶋さんと2人で、「蒲田と赤羽は似ている」という話で盛り上がりました。

— へぇ、そうなんですか。

清野 実際、蒲田在住の読者が、よくメールをくれたりするんですけど、みんな「蒲田在住で赤羽には行ったことがないけれど、すごい親近感わきました」とか送ってくるんですよね。赤羽を連載する前に、僕自身も何度か蒲田には行ったことはあるんですが、やっぱり降りた時の印象が赤羽にすごく近いんですよね。

— どういうところが?

清野 歴史的な成り立ちとか、地理的な条件とか赤羽と共通点が多々あるんですよ。たとえば、歴史的に言えば、どちらも戦後は闇市で栄えて、そこから赤線だの青線だのとなっていく……という。

— なるほど!

清野 あと、地理的にも両方とも大きい川を挟んだ県境なんですよね。赤羽なら荒川があって、蒲田なら多摩川がある。そういうところって流れ着くんですよ、良くも悪くもいろんなモノが……。もしも僕が蒲田に住んだら、絶対おもしろいものが描けると思いますね。

— なるほど。両方、アンタッチャブルな面もありつつという感じですね。

清野 蒲田に2回目に行ったときも、赤羽的なおもしろい店を散々はしごして。帰ろうと思ったとき、ちょっとおもしろそうな路地があったので、せっかくだから通って帰ろうと思って通ったら、白髪のじいさんがチャリンコに座ってたんですよ。「あぁ、あの人どっかで見たことあるなって。どこで見たんだろう……あ、赤羽だ」って。その人は赤羽の風俗街で呼び込みをしているおっさんだったんです。

— へー、怖いほどに赤羽と蒲田がつながりますね。

清野 さすがに僕もなんで蒲田にいるのかなと思って話しかけたんですよ。「いつも赤羽で呼び込みされてますよね? どうして蒲田にいるんですか?」って。そうしたら、そのおじさんは「それはね、蒲田に住んでるからだよ」って。つまり、僕がたまたま蒲田に行った日にそのおっさんと蒲田の駅前で出会ったていうことなんです。

— 恐ろしいですね。

清野 まぁ、たしかに京浜東北線で赤羽と蒲田はつながっているとはいえ……。なんという偶然。このどうでもいい確率とかをもっと他のほうでなんとか利用したいですよね。例えば宝くじに当たるとか(笑)。

清野流! 「知らない人に声をかけるときの人心掌握術」とは?

— でも、このおっさんもそうですけど、清野さんは対象を見つけたときに、グイグイと相手の懐に入っていくのがうまいですよね。

清野 あれは、もうコツをつかんだんですよ。もちろん中にはダメな人もいますけど。基本は全肯定です。何を言われても全肯定で返すことです。

— どうやったら初対面の人でも心を開いてくれるんですかね。そもそもどうやって話かけるですか?

清野 まずは、ある程度数メートルくらい近くまで行くんですよ。近寄った段階でその相手がこっちに対して心を開いてくれる人なのか、そうじゃない人かって大体分かるんですよね。

— へー。

清野 「この人はどっちかな? 判別がつかないな」という人には、まず満面の笑みで挨拶します。そこで目を合わせて会釈を返してくれたりと、応じてくれる場合は行けますね。でも、一方で挨拶しても目すら合わせてくれない。そういう人に心を開いてもらうのには、ちょっと時間かかっちゃいますね。

— なるほど。お店の場合はどうですか?

清野 お店の場合は簡単ですよ。客という立場を最大限利用すればいいんですから。いきなり店に行って「漫画に描かせてください!」と言うのはNGです。客としてある程度通い詰めて、いくなら今だってタイミングで、自分の素性を明かして、「漫画に描かせてください」っていうと相手はだいたいOKしてくれますよね。

— すごく根本的な話かもしれないんですけど、清野さんが不思議ものや変なものに惹かれる理由とかってあるんですか?

清野 これはもう性癖に近いですね。昔から街のゴミ屋敷とか、ゴミ屋敷という言葉が流行る前から見つけるとパシパシ撮りにいって、中から住人が出てくる。そういうのが楽しみで喜びを見出していましたから。人間の得体のしれない恐さと言いますか。でもそういう恐怖って、ちょっと見方を変えたら滑稽になるんですよね。そこが好きなんだと思います。

— なるほど。

清野 あとは、こわいもの見たさじゃないですかね。お化け好きな人とかいるじゃないですか。それと似てるんじゃないですかね。わけのわからないもの、自分には理解できないものに惹かれてしまうんです。

ドキュメンタリードラマ化によって、赤羽に変化は訪れるのか?

— 今回のドキュメンタリードラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)もそうなんですけど、マンガ『東京都北区赤羽』を読まれて有名人で赤羽に興味を示す人が増えた気がします。

清野 山田孝之さんも、撮影関係なしに「これから赤羽で飲みませんか」と普通に連絡をくれたりする、変わった方です。でも山田さんのこと知らない赤羽の人たち結構いるわけですよ。山田さんはそういう人たちからもすごく好かれて。それはやっぱ、山田さん自身が変わっているから、なのかもしれませんね(笑)。

— このドキュメンタリードラマが放映されたら、赤羽がちょっとしたサブカルの聖地になっちゃいそうな感じがしますね(笑)。

清野 もしも、本当に赤羽がサブカルの聖地になっちゃったら、僕は早々に蒲田に引っ越しますね。

— なるほど。

清野 でも、そういう流行すらも赤羽は飲み込んでいくと思いますよ。そういうのに左右されない、今まで通りのままであり続ける力が赤羽にはあると思います。

— そうですね。赤羽のおばちゃん、おじちゃんたちは、テレビとか芸能界とか超越してる感じしますからね。

清野 この街は、外部からの力で、簡単に変わる街じゃないですよ。だから、僕としては、戦いですよね。僕が赤羽のマンガを描いたことによって、赤羽の町がガラっと変わっちゃったら僕の勝ち。それでも変わらず今まで通りのこんな感じの街であり続けたら、赤羽の勝ち。

— 清野VS赤羽。

清野 でも、正直、僕はこの戦いには負けたいなって思ってますけど。赤羽は、僕なんかが変えられる街じゃないですよ。

— たしかに、仮に清野さんの漫画やテレビの影響で、赤羽にやってくる観光客が増えたとしても、赤羽は全部飲み込んでしまいそうですよね。

清野 焼石に水ですよ(笑)

赤羽の街のおもしろさに負けない、創作漫画を描きたい

— では、最後に今後の目標や、描きたいテーマ、挑戦してみたいこととかを教えていただけますでしょうか。

清野 最終的な目標ですけど、デビュー当時は創作のふざけた漫画を描いてきたんです。でもそれらの作品は泣かず飛ばずで、今度は赤羽をテーマに漫画を描いたら人気が出て……。つまり、僕の頭で考えた事は、赤羽で僕が実際に体験したこととか、出会った人たちのおもしろさに負けたわけです。現実に負けてしまったんですよ。だから、いずれは創作で赤羽を超えるヒット作を出したいなと。

— おぉー、楽しみです!

清野 もちろん、まだかなり先のことですよ。 まだまだ現実で描きたいこと溜まってるんで(笑)。


(おわり)

清野とおる(せいの・とおる)

1998年、ヤングマガジン増刊青BUTA掲載の『アニキの季節』でデビュー。 その後『青春ヒヒヒ』『ハラハラドキドキ』をヤングジャンプで連載。代表作は『東京都北区赤羽』。 1月28日に『ウヒョッ! 東京都北区赤羽(4)』『Love&Peace〜清野とおるのフツウの日々〜(1)』、『 清野とおるのデス散歩』が同時発売!

執筆:神田桂一 撮影:小島マサヒロ


増補改訂版 東京都北区赤羽(1) (アクションコミックス)
増補改訂版 東京都北区赤羽(1) (アクションコミックス)

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書いた人に聞いてみた。

cakes編集部

いま世間で響いているおもしろい本、素敵な本。その本を書いた人に、じっくりとお話を聞いてみます。

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コメント

BILLY272 やっぱりマスク…。 3年以上前 replyretweetfavorite

kotoranuki @makaranhosii 赤羽も楽しいよw https://t.co/a4o755pB6s 3年以上前 replyretweetfavorite

dyesilver @komNYMD YMDのこと書いてるよ~。 https://t.co/t3F7AlKugT 3年以上前 replyretweetfavorite

OkuraSatosi "@seeeeeeeeeeeeno: とは( ´ ▽ ` )ノ 3年以上前 replyretweetfavorite