恋愛と贅沢とゾンビ、あるいはなんとなくクリスマス

詩人・社会学者の水無田気流さんが、クリスマスに対して思わぬ角度から切り込みます。これはエッセイか!? それとも小説か!? クリスマスで賑わう世間に違和感を覚える人は、ぜひ読んでみましょう。

 クリスマスに関する最初の思い出といえば、小学校1年生の時、父がアメリカに長期出張に行き、帰国後一時期大変にアメリカナイズされてしまったことが挙げられる。まず、朝ご飯は味噌汁に納豆からミルクとコーンフレークになり、それまで自宅では浴衣でつくろいでいた父が、一瞬だけアロハシャツを部屋着にしていた(恥ずかしいのか、これはすぐにやめたが)。帰路、ハワイにも寄ったらしい。のんきな出張だったのだ。

 そして、何よりインパクトがあったのは、当時としては比較的珍しかった子どもの背丈ほどあるクリスマスツリーを買ってきたことだ。電飾を光らせて、飾り玉や天使の人形たちをぶらさげたツリー。一番てっぺんのお星さまをつける役をめぐり、毎年妹と取り合いになった。最近、こんな幼少期の思い出が、すべて「日本人の考えるヴァーチャルなアメリカナイズ」であったことをひしひしと感じる。とくに、このクリスマス時期には。

 個人的な感慨で申し訳ないのだが……私はクリスマスのショッピングセンターを歩いていると、なぜかいつも、奇妙にゾンビっぽいと思ってしまうのだ。消費のための高揚感を抱えた人々や、消費せねばと眼を血走らせる人々、売ろうとやはり目を血走らせる人々が、なんだかひどくそう見える。ゾンビとショッピングセンターは非常に相性がいい。いや、あえて言おう。20世紀のクリスマスのショッピングセンターこそが、おそらくはゾンビの「故郷」である、と。

 そんなわけで、以下は暴走SFパロディ小説風極私的クリスマス解釈である。あるいは、人類への軽いデコピンレベルでの警鐘である。お楽しみいただけたら幸いである。


 

 以下は、22××年12月24日、極東州都トーキョーで、「クリスマス」と最前線で戦うエージェントの通話記録である。周知のように、例年人類はクリスマス時期になると増殖するアンデットどもと、熾烈な戦いを繰り返してきた。だが一方、アンデットは貴重な経済の動力源でもある。彼らの思考力なき貪欲さこそが、前々世紀に世界を襲った景気低迷を脱却させたのだから。とりわけ、ヤツらの集団同調的消費行動は、当時「ケンショーヒ」「ソーショクケー」などと呼ばれた、極東の低コスト型消費志向者たちを、一気に優秀な消費者へと仕立てあげることに成功した。

 だが、その代償はあまりに大きかった……。クリスマス期は、ご存じのように世界各国の人口密集地域で、ヤツらのエネルギー源とする瘴気濃度が上昇する。ヤツらは、音と光に極めて強固に動機づけられるが、この地域の指導者たちは、あえて彼らの行動を活性化すべく、せっせと電飾をつけ、「クリスマス・ソング」を流している。装備が不十分な者は、決して極東州に近づいてはならない。本年の「クリスマス掃討作戦」は、例年に増して厳しい戦いとなるだろう。諸君らの健闘を祈る。それでは、心してお聞きいただきたい。

 はい。お母さん? そう、私。ミチルよ。うん、元気。

 冷凍睡眠明けだから、万全にシャキシャキに元気、とはいえないけれどね。

 お父さんは、相変わらず? 温度調整に不自由はない? 旧式タンクだから、心配といえば心配ね。大丈夫、絶対にお父さんみたいな人も、必要とされる時期はくると思う。それにしても、必要な人を必要なときにだけ起こすシステムって、効率はいいけどさびしいわよね。お父さんみたいな木こりって、第一次産業従事者? うんそう、そうね。ずっとスリープしっぱなしじゃない? これじゃ、そのうち私たちが実働年齢でお父さんを抜いちゃうかも。

 お兄ちゃんのことは、心配しないで。ちょっとセンターに呼ばれているところで、外部との接触が制限されているだけだから。それから、弾倉の補給をどうもありがとう。ちょうど、ほしかったところだったの、硫酸弾! ヤツらを効率よく始末するには、どうしても必要なの。とくに、今年のヤツらには役立つわ。すっごい爽快よ! それから、クリスマスレーションもね。本当にありがとう。この地域では、クリスマスに北米式汎用型食用鶏肉フライを食べる習慣が根づいていて、ターキーはなかなか入手できないのよ……。

 そうそう、私たち兄妹がトラベラーデビューしたのも、クリスマスだったわ。おかげで軍にスカウトされたし、仕事はもちろんやりがいもあるんだけど……。うん。今年はもう、婚期とか孫の顔とか、そういう話はなしよ。

 え? DNA適合配偶者のマッチングが成立するまで、タンクでスリープしている手もあるって? 何それ、今流行の婚活冬眠・通称「スリーピング・ビューティ」でしょ、知ってるわよ! タンクに並んだまま、勝手に適合者の男にマッチングされるなんて冗談じゃない! 友だちでそれでマッチングした娘もいるけど、たいてい寝顔か、下手すると死体フェチ系のやっばい男が登録してるのよ! 彼女の旦那はずっと「ハニー、ずっと眠っていてくれないかな~? いっそ、死んでいてくれてもいいんだけど」とかって激烈にキモいらしいわ。起きてる女とは目も合わせられないとかって。オェェ……。

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