霧たちこめる
あらしのよるに
くつもはかずに 岩のうえ
波打ち際の白衣の乙女を
見たことが あるなら
霧たちこめる
あらしのよるに
ふるえる水の 冷たさで
波打ち際の白衣の乙女を
抱きしめたことが あるなら
あなたにもわかるでしょうか
風がベールを奪い去り
稲妻照らす 頬に赤
しずくの落ちる黒髪と
時間は石と固まって
私だけが知っている
彼女の最後の ものがたり
霧たちこめる
あらしのよるに
空と海との 境界線
両手ひろげて 目を閉じて
白衣の女が 岩に立つ
「波打ち際の白衣の乙女」
アレクサンドル・プーシキン(1799~1837)
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