度肝を抜かれるとはこのことかと読み終えて興奮さめやらぬ中で思う。本書『鴉龍天晴』は第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作ということで、著者の神々廻楽市さんにとってはこれがデビュー作にあたる。読み終えた時に「こんな才能がいままでどこに隠れていたんだ」と驚かされたものだ。
まず目をひくのはその特徴的な文体だろう。語りは地の文まで含めて「かっこよさ」にステータスを全て振り込んだように軽妙洒脱。文章が持ちえる能力を十全に発揮してやろうとでもいうような挑戦的な文体。時間を伸ばしたり縮めたり、被写体の内面を語る描写から、状況を的確に捉えてみせる俯瞰からの描写を交互に展開していくリズムが気持ちよく、自由自在にコントロールする文体を新人にして構築している。こうした文体が最大限発揮される戦闘描写においては、剣豪同士の戦いにおいて切っ先が目の前をかすめていく時の張り詰めた緊張感を文章で体感させられたかのような臨場感がある。
小説を構築するのが言葉である以上、本来であれば、物語における世界観の創造とそれを表現する文体の創造は不可分の関係にあるはずだ。その世界を表現するのに最適な文体の構築。言うは易し行うは難し、江戸を舞台に様々な要素のごった煮状態になった本作を表現するのに相応しい文体の創造などそう簡単にいかないのではないかと思う。だが、本作はその点においても成功している。
簡単な世界観説明とあらすじ
さて、それでは本作で描かれていく世界観とは何なのかと話をつなげていけば、これがまた特異なものである。