西国の妖と東国の科学が激突する幕末スチームパンク『鴉龍天晴』

関ヶ原の役を契機に東西に分断された日ノ本。西国では妖が跋扈し、東国では封神兵器・鬼巧が開発されていた。西の独立自治区・京で暮らす医学生・竹中光太郎と東の帝国陸軍武官・真田幸成は、通商条約締結に端を発する戦に望まぬまま巻き込まれることになり……。
冲方丁に「どんなテーマも咀嚼してしまうであろう感性の持ち主であり、この先の成長が底知れない。」と言わしめた、第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作『鴉龍天晴』の一部を抜粋掲載。


イラストレーション:スオウ

 八月三日の夕刻、ようやく幕は下りた。

 戦と芝居はよく似ている。流れる筋から生み出される一編は新たな歴史の編纂に見えてその実、緻密な脚本に基づいた戯曲である。どちらも全ては緻密な計画の上に成り立っている。しかし、不測の事態は免れない。瞬時の対応を誤れば、戦も芝居も即座に幕を下ろすのだ。当人達に自覚はなくともそうやって取捨され、選択された歴史に感応し、また新たな人生という名の即興の道を紡ぎ出す。一先ずこの場は収まった──はずなのに。

 無事下ろされたはずのその幕が突如、断末魔の悲鳴と共に切り刻まれる。

 天地の極が反転し、清と濁が混じり合う。その剣がもたらす稲妻は強烈な磁場を生み、月さえ刀陣の ( うち ) へと引き寄せる。故に太陽との綱引きが起きて、使い手と太陽との間に月が入り込み、日蝕を引き起こす。空に黒き太陽を浮かべるのだ。何事かと振り向いた幸成の眼に映ったのは、最早剣術などと呼ぶ代物ではなかった。どんな戦術も戦略も謀も砂粒一つに充たない無へと帰してしまう程の圧倒的な暴力兵器。

 常夜の世界より舞い降りた漆黒の鴉が 芥子粒 ( け し つぶ ) を弄ぶが如く、次々と命を ( ついば ) む。

 危険を察した兵達が数に ( たの ) んで鴉に殺到する。切っ先がゆらゆら揺れたかと見えたその刹那、音が消えた──ぴんと張り詰めた静寂──ここは死臭漂う地獄の入り口、冥界へと案内するのに 一分 ( いちぶ  ) の隙もなく滞りもない。血があちらこちらに噴き出す。全員が眼にも止まらぬ神速の刃で音もなく斬られていた。血によって施された美しく ( まばゆ ) い朱色の化粧は実に禍々しい。 黄昏 ( たそがれ ) の中に浮かぶ太陽さえ殺すのだから。

 何だ? あれは何だ? 一体何なのだ!?

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第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作!『鴉龍天晴』

神々廻楽市

「今回最も楽しめたのは『鴉龍天晴 ~the Twilight World~』だ。」神林長平(作家) 「自分でも制御できない程に『書きたいもの』を抱える、その作者の大きな質量と熱量を感じる。」小島秀夫(ゲームデザイナー/「メタルギ...もっと読む

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コメント

ame_note cakesの記事といえば、これめっちゃ読みたいんですよね 5年弱前 replyretweetfavorite

yohkoy  #cakes 面白い!続き読みたい!メモ。 5年弱前 replyretweetfavorite

isoparametric7 本日付の日本経済新聞夕刊にて、小谷真理さんに神々廻楽市さん『鴉龍天晴』をご紹介いただきました! 『鴉龍天晴』はcakesにて一部分を公開中です。https://t.co/t1iJdKVYsp 5年弱前 replyretweetfavorite

Ypa_Imperia @no_Lenn https://t.co/oxEDgPygRe?????? 5年弱前 replyretweetfavorite