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「調子ブッこいてんじゃねーよこのクソアマぁ!!」
さいたま市、浦和区、6時30分。
どピンクのロリィタ服で身を固めたその女子は、姫な見た目に似合わない暴言で怒り狂っています。薄暗い駐車場のブロック塀に私を追い詰め、しかし間合いは詰めずに。
私は当時17歳。ヴィジュアル系のライブに通いつめ、服も爪も目の周りも真っ黒でした。言うなればマリリン・マンソンに、どピンク姫がケンカ売ってる場面を想像していただければわかりやすいと思います。
「テメェよぉ……古参ファンなめてんじゃねぇぞ……」
こちらを睨みつけたまま、姫は手近な空き缶を拾い上げます。
「このバンドはアタシがずっと支えてきたんだよ……新規ファンが気安く話しかけてんじゃねぇよ……」
ヤバイ。これはヤバイ。逃げようにも後ろは壁。 私は震える両手をかざしました。 姫は数歩下がり、助走をつけて、そして……
「死ね!!!!」
空き缶をマリリン・マンソンに向かって投げつけました。
「!!」
しかし。
パシッ!
人間やればできるもので、私は投げつけられた空き缶をかざした両手で受け止めました。
ナイスキャッチです!!
投げつけられた空き缶を手に、私はボールを打った直後の野球選手みたいに走り出しました。全力逃走です。空き缶ぶつけられても人は死なないだろ、と内心姫に突っ込みながら。
以上、私の青春の一エピソードのご紹介でした。
ファンです、っていう言葉は、しばしば恋愛感情を無難に表す表現として使われるのよね。
2000年代ヴィジュアル系マイナーバンドの世界では、多くの女の子たちが「いかにバンドマンを落とすか」に血道をあげていました。「狙いギャ」と呼ばれる彼女たちは、表向き「ファンなんですぅ~」という顔をしながら、ネットの裏掲示板で「麺」と呼ばれるヴィジュアル系バンドメンバーたちを淡々と品定めしていたのです。「あの麺、食えるかな?」って。
中でも最高に複雑だったのが、「アタシは狙いギャとは違う。アタシは○○くんの本当のファンだから」とかたく信じ込みながら、それでもお金やカラダを捧げ続ける“ファン”の女の子たちでした。
当時は正直「だまされちゃって、おバカねぇ」としか思いませんでした。ですが、やがて自分にも大好きな人ができて、初めて私は気が付いたんです。
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