未来予測を嗤え!

第4回】人間にはストーリーが必要だ

12月10日に発売された「未来を予測することは可能か?」「ビッグデータの本当の意味」「人工知能の可能性」などといった現代科学の問いに対し、プログラマーにして人気の書評家・小飼弾さんと、気鋭の数学者・神永正博さんが語り尽くす対談書『未来予測を嗤え!』。本連載では書籍の内容の一部を紹介していきます。最終回となる第4回では、批判的思考を身につける術をご紹介していきます。

脳はつじつま合わせが大好き

—「世の中は数字で動いている」「定量的に考えろ」といったことは昔から言われていますね。集めたデータを元に、企業や政府も将来を予測しようとし、人によっては「未来はこうなる!」と断言したりします。

神永 人間はどうしても拠り所がほしいから、断言する人がいると、その人についていってしまいたくなる。学問の世界でも、全部わかっているかのように話す人がいますが、別にその人だって何もかもわかっているわけではなくて、わかった振りをしているに過ぎません。
 統計データを使った説明についても注意が必要です。一見すると、数学的な操作で結論を出しているように見えても、そこには必ず分析者による解釈が入っています。私たちは、複雑な事象をそのまま理解することはできず、ダイジェストしたストーリーを仕立てないと理解できないんですよ。僕も論文や本を書く時にはできるだけ恣意的にならないように心がけますが、完全に恣意を除くことはできませんね。

小飼 「恣意的に考えない」と考えることそのものが、まさに恣意じゃないですか(笑)。
 僕らの脳はつじつま合わせが上手で、あとから記憶を改竄してでもストーリーを作ってしまうことが実験によっても示されています。因果関係のない出来事はいくらでも起こり得るのだけど、人間の脳はそれを無視して、因果関係のあるストーリーとして記憶してしまうのです。例えば、落雷にあって気絶した人が、気がついた時に「私の不注意で高圧線に触ってしまい、感電してしまった」というストーリーを「思い出す」ことだってあります。まれな出来事はつじつまが合わないということで脳が無視してしまい、つじつまの合う別のストーリーに入れ替えるのです。

神永 それをいうなら、歴史なんてまさにストーリーですね。ほとんどの出来事は偶然に起こっているのだけど、それらをつなげて因果関係で説明しようとする。第一次世界大戦の開戦理由にしてもいろいろと説がありますが、結局はよくわかっていませんよね。

—戦争が始まる直前までほとんどの知識人は、「世界大戦が起こらない理由」を自信を持って主張していました。

小飼 理由なんか本来はないはずなのに、「この国はこういう状況だったから、結果としてこうなった」といったストーリーを作り上げてしまう。「なぜ」こそ、僕たちの脳が一番欲している幻想なんでしょう。事実は事実として存在するのだけど、我々がそれについて語ろうとすると、必ずストーリーになってしまう。もう人間の脳の構造がそうなっているとしかいいようがない。

神永 論文では、みんな理路整然と「これがこうなってこうだから、結論はこうなる」なんてあたかもはじめから理由がわかっていたみたいに書きますけど、そんなのは嘘です(笑)。数学の研究にしても、「きっとこうなるはずだ」という予想をたくさん立てて、何百通りの方法を試して、もう全部打つ手がなくなった時にパッとひらめいた方法を試したら、やっぱりそれも全然違った......ということばかりですよ。だけど、そんな試行錯誤は論文には書かずに、あたかもはじめから道筋や目的地が見えていたかのように書くわけです。そうしないと、論文なんて読めたものではなくなってしまう。それでもその根拠が完全なデタラメではまずいので、できる限り正しそうなデータを手に入れて、現実に即していると思われるストーリーを書こうとはしますけど。

小飼 脳がストーリーを作り出すのは、人間も食物を取り入れて生きている生物だからでしょう。意外に無視されがちですが、何かを理解するにはコストがかかっています。網膜に映ったモノの情報が脳に伝わり、何らかの判断を下すためには、時間も掛かりますし、エネルギーも消費します。「人を見かけで判断してはいけない」とはよく言われますが、だからといって自分と関わりのあるすべての人とじっくり語り合い、理解するだけの手間をかけられるほどの暇を私たちは持っていません。だから、脳は無理矢理ストーリーを作って、ダイジェストするのです。

神永 そうですね、常に僕らは何でも単純化したいんです。多様な事象をそのまま理解することはできませんから。
 例えば、生活保護を受けている人の状況にしても、多くの人の頭の中には何となく固定化されたイメージがあるでしょう。実際に困窮している人達の状況は千差万別のはずですが、それら個別の状況を分析対象にするのは難しい。それを補うために、小説も存在するのでしょう。
 困窮した女性たちがどんな状況にあるのか、数字で見せられてもよくわかりません。しかし、桐野夏生さんの小説『OUT』(講談社)の弁当工場で働く女性達の描写を読むと、「なるほどこういう状況なのか」と理解した気になる。文学なんて必要ないという人もいますが、とんでもな い話です。統計データだけで理解できるほど、世の中は単純ではありません。

—ストーリーがないと、普通の人がどうなのかなんてわからないと。

小飼 いや、そもそも「普通」という概念自体が恣意的なんですよ。「普通」を定義することなんてできるのでしょうか? 経済学では、経済的合理性にのみ基づいて行動する「ホモ・エコノミクス」(合理的経済人)という概念を用いますが、そんな風に行動する「普通の人」などいません。あれは、「普通でないもの」を全部切り落としていった結果、まったく普通ではない存在ができあがってしまった好例です。
複雑な物事を「普通」へとダイジェストして、ストーリーを構築する。この手法は極めて強力であり、人を騙すためにもよく使われます。人を動かすためには、その人が動きたい方向に向かうストーリーをでっち上げてしまえばいい。

人はこうして騙される

—それでは、人の作ったストーリーを読む際にはどんなところに注意すればよいのでしょうか?

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未来予測を嗤え!

小飼弾 /神永正博

統計学やビッグデータの普及によりいろいろな分野で未来を予測することが可能になった。しかし予測では知ることがきない、人類にとって大事なことがある。人気の書評家と気鋭の数学者による白熱講義!

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コメント

tm2501 あー小飼弾ってやっぱりバケモノだわ。今この人に及ぶ人が思い浮かばない。  約4年前 replyretweetfavorite

tm2501 たまに言われてることだけど、改めて明文化されるとこれは面白い 約4年前 replyretweetfavorite

nazenazeboy "何が「不変的な量」なのかに注目していると、物事を判断しやすくなると思います。 小飼 数学でも物理でも、不動点を見つけられれば後世に名が残ります。いろんな物事が変化しているように見える中で、何が変わっていないかを見出せる人こそ…" https://t.co/M6aOqaxKfd 約4年前 replyretweetfavorite

nazenazeboy "食料自給率の話に限らず、誰が、何のために、どんな数字を持ち出してきているのかには、注意すべきです。都合のよい数字を持ってきて、材料に使うのは、もう誰でもやっていることですから。" 約4年前 replyretweetfavorite