クラウドファンディングで支持を集める独立系ゲームクリエイター
稲船敬二(以下、稲船) 僕も独立してインディーズでゲームを作り始めましたが、加藤さんもスクウェア・エニックスという大手からインディーズに行って活躍されてますね。
加藤拓(以下、加藤) いやいやいや、できることからやっているだけですよ(笑)。
稲船 加藤さんが作っている『AirShip Q』というゲームは、いい意味で手作り感がありますね。手作り感のあるゲームを世に出そうというのは、とても勇気のいることなんですが、加藤さんはそれを堂々とやっているなと感じていますよ。
加藤 ありがとうございます。
稲船 それに、ゲームを作って終わりという人が大勢いる中で、それをどう広げるかというプロデュース目線を持っている。ゲームを作るだけでは広がらないので、プロデュース目線はとても重要なんです。加藤さんはそれができていて、実際にクラウドファンディングで資金集めに成功して多くの人に認められている。今の日本ゲーム界のインディーズを引っ張っていける1人じゃないかなと思っています。
加藤 そこまで言っていただけるとは(笑)。
稲船 Makuake*1の最速時間で目標金額を達成したというのも、『Airship Q』への期待はもちろん、加藤さんへの注目度の高さを表してると思いますよ。
*1 Makuakeはサイバーエージェントが手掛けるクラウドファンディングサービス
加藤 それはもう、稲船さんの『Mighty No.9』が、アメリカのクラウドファンディングKickstarterで4億円以上の資金調達に成功したのを見て、勇気をもらっていました。
稲船 いわゆる横スクロールのアクションゲームという、古きよき時代の日本のゲームを作ると宣言していたんですが、それが多くの人に受け入れられたんでしょうね。それはとても嬉しかった。
ギリギリ感が生み出してきた日本のゲーム
加藤 古きよき時代の日本のゲームって、ギリギリ感があるんですよね。稲船さんが作られていたゲームも同じで、際立っているというか、殺気立っているというか、そういうピリピリしたものを感じていました。
稲船 殺気って(笑)。
加藤 本当にギリギリの、これ以上やりようないだろ!っていうプレイをしないと進めなくて、とても苦労した記憶がありますよ。しかも、必死にボスまで辿り着いても全然倒せないなんてことばかりで。
稲船 僕がゲーム業界に入ったころから、ぎりぎりのアクションを作るのが伝統になってたんですよ。そういう文化の中で育ってきたので、ぬるいアクションが作れない。
加藤 確かにどれもギリギリ感がありましたね。どうしてそういう文化になったんですか?
稲船 僕がいた会社では『魔界村』という作品が基本にあるから。
加藤 ああ! それで納得できました。いや、もう1面の序盤のレッドアリーマーでいったい何回死んだことか……。
稲船 『魔界村』というすごく難しいゲームが基本にあったので、その後のゲーム作りでは「こんなゆるいゲームを出していいのか?」って心配していました。
加藤 稲船さんが作られてきたゲーム、ぜんぜんゆるい感じはありませんでしたよ(笑)。
稲船 ええ、当時もたくさんの人から同じように言われました。こんなにユーザーと自分たちの感覚が違っていたのかとショックを受けましたね。そんな環境で育ったので、難しいアクションを作ってやる!という意識を持たなくても、勝手にそうなってしまった。虎の穴で育ったタイガーマスクみたいな状態ですよ。
加藤 厳しいのが当たり前になっているんですね。
一部の人にグサッと刺さるゲームを作りたい
稲船 ただ、技術が発達するにつれて、横スクロールのアクションから3Dのポリゴンを使ったゲームに変化していって、ギリギリを追求しにくくなってしまった。それに、ゲーム業界でRPG人気が全盛になって、アクションよりもストーリー性や謎解きなどの要素が重要視されてしまったわけです。
加藤 そういう状況だと難しいゲームが受け入れられなくなりますよね。特に最近だとスマホでゲームをするようなユーザーを対象に考えますからね。
稲船 確かに業界としてその傾向はありますね。
加藤 僕がいたスクウェア・エニックスでも、例えば『ドラゴンクエスト』をリメイクしてスマホ版を作る時は、今のスマホユーザーがどう感じるかを意識してバランス調整をしている。ゲームを手軽にできるように、昔はなかったアドバイスを入れたりという、今のユーザーに合わせた仕様変更も結構あったと聞いています。
稲船 でも逆に、『ダークソウル』のような難しいゲームも人気がありますよね。FPS*2もそうですけど、どんなに上手い人でも殺されてしまうんだけど、復活してまたプレイして。そうやって殺されることで学んでいって、どんどん相手を倒していくっていうタイプのゲームも、今のゲーム業界の流行の一つにあると思います。
*2 主人公の一人称視点でゲーム内の世界を任意で移動することができる3Dのゲーム。
加藤 たしかにそうですね。
稲船 こういう難しいゲームは、今でも一定数の人々には需要があるんじゃないかと思っています。いま作っている『Mighty No.9』も、昔の横スクロールのアクションゲームで、そこをターゲットにしてますね。ターゲット層を曖昧にしちゃうと売れないと思っているので、昔からそこははっきり決めるようにしています。ただ、本当は曖昧にしたいんです。
加藤 え、どうしてですか?
稲船 いや、あたりまえのことですが、難しいのが好きな人でも簡単なのが好きな人でもどちらもターゲットにしたほうが、いろんな層に買ってもらえるじゃないですか。けど、そのやり方は相当な実力がいる。僕は「本当に欲しい人だけ買ってくれ!!」という姿勢で作ってますけど、それはそこまでの実力がないということを受け入れているからなんですよ。
加藤 なるほど。稲船さんでもそう思うんですね。
稲船 たとえばゾンビの生々しい描写があるゲームを作った時は、「これ、倫理委員会通らないよ」「日本じゃ売れないよ」とか言われたんですけど、「じゃあ売るな!」って言い返しました。もっと日本のユーザーに合わせろなんて言われたんですけど、「いやしない。首は飛ぶもんだ!」って。むしろその方が買ってくれるユーザーには刺さると思ったんです。
加藤 ははは(笑)。
稲船 それでもすごく頼まれたので、結局飛ばないバージョンを作りましたけどね。
加藤 かなり粘ったんですね。
稲船 それはもう。でも、それくらいターゲットを絞って狙わなきゃいけない。刺さる人にグサッと刺さらない限り、他の人には全然刺さりませんから。グサッと奥まで刺さなきゃいけないのに、今風にちょっと緩さを入れましたとか、一発死にやめて一回くらいダメージくらってもOKにしましたとかってしてしまうと、もうだれも見向きもしない。
加藤 『Mighty No.9』もグサッと刺さるものを作ろうとしているということですね。
稲船 「横スクロールアクションは昔から得意なんだよ」って言う人たちが音を上げるやつにしようと。それで売れなきゃ仕方ない、欲しいと思う人に届けたい、というスタンスでやってます。その代わり、遊んだ人が「くやしい!もう1回!」と思えるものを入れる工夫はしています。
加藤 いやあ、だってさっきも言いましたけど、僕が稲船さんの作ったゲームをやっていたころ、何回やってもボスが倒せなくて、ひたすら繰り返してた記憶がありますもん。
稲船 いいゲームかどうかって、そこなんですよ。すごく難しんだけど「くそ!もう1回やってやる」って思わせられるかどうか。それはスマホでも、コンシューマゲームでも同じだと思いますよ。「死んだ! 悔しい! 課金してやる!」っていうのがスマホで、「悔しい! もう一回やってやる!」ってマメできるくらいやるのがコンシューマゲーム。その部分はブレないように、以前よりも厳しく考えるようになりました。
次回、「名前を出せば駄作は作れない」は1/30(金)更新予定