どうして、私だけがこんな目に遭わなくてはならないのだろうか。希望退職をして既に去って行った数名の営業アシスタント。誰もこんな言われようはしていないはずだ。最後の営業アシスタントだから引き留めようとしているの? いや、それでも、いくらなんでも、あんな言われようは納得ができない!
マイボトルのルイボスティーを一気に飲み干し、「よし!」と一声背筋を伸ばす。うん、大丈夫。誠意を持ってしっかり話せば、自身の思いは絶対に伝わる。今朝の占いのラッキーアイテム(ルイボスティー)に背中を押された美沙は、勢いよく中会議室へと向かった。
「浅井さんはいつもお弁当持参されているようですね」
「はい、毎日外食だと正直きついので……」言ったそばから、何となく安月給を主張しているかようで、気まずさに自然と目線が落ちた。
「そうですか」
あっさりとした返答に、やはり自虐的発言であったか……と思う。
「では午前中の話の続きをしましょうか。浅井さん、何か言いたいことはありますか?」
言いたいこと、と言われると、口にするには少しばかり勇気がいったが、自身を奮い立たせ口を開いた。
「私は……別に頑張りたくない、と言っているわけではないんです。好きなことを仕事にしたい、そう願うことが、そんなにいけないことでしょうか? 成功者は例外なく、好きを仕事にしています。スティーブ・ジョブズもです」
「浅井さん、ジョブズの偉大さについて沢山の人が色んなことを言っていますが、あなたはどう思いますか?」
どう? どう?? 自ら名を口にした割に、悔しいけれど何も言葉がみつからない。
「私はこう思うんです。彼は『いま、ここに存在しないものに対して情熱を傾けられた』。
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