上田岳弘 前編「有無を言わせぬ一貫した法則のもとに」

上田岳弘さんによる小説『太陽・惑星』が上梓されました。「太陽」は、新潮新人賞受賞をしたデビュー作でありながら、三島由紀夫賞の候補に。2作目「惑星」は15日発表の芥川賞候補になるなど、スケールの大きな力強い物語が評判を呼んでいます。アフリカの赤ちゃん工場から、新宿のデリヘル、インドの湖畔まで、荒唐無稽な展開を「有無を言わせぬ一貫した法則のもとに文章を連ねていきたい」と語る上田さん。一気に惹き込まれる独特の物語を、どのように企んでいるのか話を聞きました。

デビュー作「太陽」と、それに次ぐ「惑星」の2作が収められた『太陽・惑星』は、上田岳弘さんのさいしょの小説集。どちらもさほど長くない作品ながら、読んで受け取る印象はとにかく濃密、のひと言。上田岳弘という新しき小説家の特異な文体、スピード感、思考法がぎゅっと凝縮されたかたちで、読む側へ否応なく流れ込み続ける。

太陽・惑星
『太陽・惑星』上田岳弘

作品世界にすぐ没頭させられるので気にはならないけれど、両作ともストーリーがかなり入り組んでいて、人物は続々と登場しては去っていき、場所と時間も目まぐるしく入れ替わる。わかりやすい小説であるとは、決していえない。

錬金術の可能性が大真面目に考察されたかとおもえば、「赤ちゃん工場」の実態に迫ってみたりと、融通無碍。読む側としては、頭を整理するのにかなり忙しくなる。

アワアワと翻弄されつつ読んでいる事態は、すでに上田岳弘の小説的企みに、どっぷりハマってしまっているのである。

無限にある小説の自由度のなかで

 金だ
 金
 金
 金が必要だ
 と切実に願う、太陽から数えて3番目の惑星の住人、春日晴臣の欲するものは太陽からは生まれない。もっとも、彼がこの時欲していたのは金であって金ではない。

(『太陽』より)

「太陽」は冒頭から、読むことの愉しさを味わえてワクワクします。タイトルそのままに、太陽についての薀蓄と思索で幕を開けますね。情景の描写や人物の行動、または会話などで始まればもっと小説っぽくなるでしょうに、「らしさ」を醸し出そうというつもりはハナからなかった?

 たしかに、いきなり太陽を主役にして書き出すなんて、少し突飛かもしれませんね。なぜそんなかたちになったんだろう。まずは僕自身が、コンセプチュアルな作品が好きだからかもしれません。普段も、全体の設計図がしっかり感じられるものを読むのが楽しいですし。

 「太陽」も「惑星」も、今のところ、僕はプロットを立てずにそのまま頭から書いています。その分、最初に抱いたヴィジョンがずっと念頭にあります。結果的に、ビシッとコンセプトの立った作品になっているといいなと思いつつ。こんなことを狙ってやっているんですよ、どうですかって、ちょっとドヤ顔をしてみたいな、なんて(笑)。

コンセプチュアルであるとはいえ、読む側を置いてきぼりにしない配慮が行き届いているのがうれしいです。

冒頭の太陽についてのくだりにしても、科学的で抽象的な話題なのに、興味深く読み進めることができる。「小説の文章」にちゃんとなっている、といいますか。相当に練り上げてあるのだと想像します。

 まずは直観を頼りに一気に書いていって、そのあとでかなり手直しをしますね。書いてる最中は調子づいていたけれど、客観的にはどうだろうかと。人に読んでもらえるレベルまで突き詰めていく推敲作業は、なかなか地味で苦しいです。一語ずつの言葉の選択もそうだし、文の連なり方、展開の仕方に気を配ってあれこれ修正しますが、それは多くの作家と同じなのではないかと思います。

 最初に作品を書いている時の話をすれば、たとえばある文章があるとして、それに続く一文には、無数の選択肢があり得ますよね。前の文に出てきた「彼」が次に何をするのか。何を見るのか。いきなり違う人物の描写をしてもいいし、とにかく自由度は無限にある。

 その中から「こうきたら、次はこうだ」という僕にとっての必然を、できるかぎり選び取りたい。有無を言わせぬ一貫した法則のもとに文章を連ねていきたいと、強く思っています。とくに「太陽」のように、話があちこちに飛ぶ内容の場合、せめて文章のつながりに法則性がないと、読む人について来てもらえないかもしれない。

スポットのあたる人物や場面が、どんどん入れ替わっていく構成ですから、読む側からすれば何かしら筋の通ったものや、読んでいくための「よすが」が欲しくなるのはたしかです。

 作品のテーマであるべき理念や観念が芯のところにはあるとして、それを直接に示したってしょうがないし、それじゃ小説の良さが出ない。

 順を追っていろんな場面が積み重なり、いろんな人物が出てきて、絡んでいく。それによって、副次的に伝えられるテーマがあると思うのです。荒唐無稽な話だけど、なんとなくつながりがあるような気がする、というような感覚で読み進めていただけたらと願っています。

リアリズムはルールを徹底することから生まれる

荒唐無稽な話に翻弄されつつ、徐々にそれが快感になっていくのは、底流を貫く理念や観念を僕らが感じているからなんでしょうか。

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山内宏泰

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