“「共和国行進」開催のため 交通機関は無料となります 1月11日 日曜日”
パリ・モンパルナス駅。
電源が落とされ、開け放たれた自動改札を、妻と私は足早に通り抜けました。テロに屈しない意志を表明する、「共和国行進」の列に加わるためです。
「フランスのために歩く」という気持ちはありませんでした。フランス人である妻にも、日本人である私にも。私たちは西洋も東洋もなく、ただ、人を暴力で黙らせてはならないという思いだけを持って歩きたかったのです。
フランスでは今、テロの標的とされた風刺週刊紙シャルリー・エブドの痛みを自分のものとして引き受ける合言葉「私はシャルリー(Je suis Charlie)」が広がっています。しかし、私たちはあえてそれを身に着けませんでした。道行く人々の多くが、それどころか凱旋門やピザ屋の店先までもが、「私はシャルリー」を掲げる中であっても。
周りには「シャルリー、シャルリー」と声高に議論する声や、口紅で「JSC(※ 私はシャルリー、の頭文字)」をお互いの頬に描きあう若い女の子たちの姿。そんな中で「私はシャルリー」を掲げずに歩く道は、なんだか、みんなが着ている制服を着ないで歩く通学路みたいでした。
そうしてホームへ向かう人ごみの中、ある若い女性が目に留まりました。彼女は手にした大きなプラカードを気にかけながら、たった一人で階段を上って行きます。
足元が悪い中にも関わらず、彼女は周りをちらちらと気にしていました。一度壁側に向けたそのプラカードを、人ごみに向けて上下さかさまに持ち直して。その文字は、はっきりとこう読めました。
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