福島産を全部避けるのが一番安全」は本当か!?

「福島県では放射線について、年間1000万袋ほどの県内産米の全量全袋検査を行っています。そのうち放射線量の法定基準値を超える袋はどのくらい?」という問いの核心に、いよいよ入っていきます。それを理解するために、全量全袋検査はどのように行われていて、それが基準値以下の時に福島の放射線を気にする意味などを、社会学者の開沼博さんは考察していきます。

「また基準値超えが!」報道の事態とは

 では、本題に入ってまいります。

問2 「福島県では放射線について、年間1000万袋ほどの県内産米の全量全袋検査を行っています。そのうち放射線量の法定基準値(1kgあたり100Bq)を超える袋はどのくらい?」

 質問の意味がパッと分かる人も多いとは思いますが、聞かれていることの意味自体よくわからない方もいるかもしれないので、少し解説します。

 2011年3月に福島第一原発事故があり、その後、福島産の農作物の放射性物質被害への不安が高まりました。「どうにかすっぺした」と対応策を考えた結果、安心感と信頼を取り戻す一つの方法として2012年度から始まったのが、この「全量全袋検査」です。

 これはその名の通り、福島県内で生産されたコメの全てを袋ごとに検査する体制のことです。2012年度から現在まで、福島県産のコメは全て「全量全袋検査」を経て出荷されています。福島県内で生産されたコメであれば、市場に流通するものはもちろん、そうではなく、自宅や知り合いで消費するものも検査することになっています。

「どれだけのコメがこの検査の過程で法定基準値超えして引っかかっているでしょうか」というのがこの問いです。当然、この検査で法定基準値に引っかかったものはそれ以上、流通させることはできず、人の口に入ることはありません。
 本連載では、既に何度も答えを言ってきていますが、ここでは、はじめてこの問いを見た方に向けて話を進めます。

 全量全袋検査では、コメの入った袋を一袋ずつ機械に通して検査を進めます。実際にどうやっているのか見てみたい方、動画がこちらにありますので御覧ください。
 これが2012年度から始まったんですが、だいたい1年間で1000万袋ほど検査をします(2014年12月25日時点で、2012年度が検査点数10,346,071点、2013年度が11,006,502点、2014年度が10,677,199点です)。

 さて、年間1000万という数がどのくらいかというと、日本の全人口が1億2000万人ほどなので、その10分の1弱ぐらいという膨大な数です。これだけの数の袋を1年間で検査して来たわけです。

 その中で、法定基準値を超えるのはどのくらいでしょうか。 
「1年間で1万袋くらい?」
「数%?」
「1000万の1%が10万だから数十万袋ということ?」
「いや、そんなにはいっていないはず。1000とか500とかの単位でしょ」
 講演で問いを投げかけると、大体こんな答えが返ってきます。テレビ・新聞で定期的に流れてきた「福島でまた基準値超えの農作物が!」みたいな報道を記憶している人も多いでしょうからね。

そこで、答えです。
「福島県産のコメ、年度ごとに約1000万袋のうち、2012年度生産分で71袋、2013年度生産分で28袋。2014年度生産分については、2014年度末時点での基準値超えは0袋」

 ということで、1000万という数に対して、100未満、しかも毎年数は減っている。一言で言えば、「法定基準値超えはほぼ出ていない」「しかも、状況は確実に良い方向に向かっている」結果だと言っていいでしょう。

「いやー出てるじゃないか! ゼロじゃないじゃないか!」と強弁されてもよいですが、だとしても、それは市場に流通しておりません。

 一方、「そんなの知ってるし、常識だし」という方もいるでしょう。散々まわりくどいことが書いてあるのにお付き合いさせてしまい、申し訳ありませんでした。たしかに、多少、福島のことを追いかけているならば知らなければ恥ずかしい数字であり、ご存知ならば常識をお持ちだということです。

 ただ、実際は、多くの人にこのレベルの知識が共有されておらず、むしろ、漠然とした不安と誤解が広まっている現状があります。上述のような、実態とかけ離れた間違いをするか、あるいは「全然想像もつかない」というリアクション。知っている人にとっては言わずもがななレベルの知識だし、そうではない人にとっては見当もつかないような状況です。

 これらのデータはいつでもWEBでリアルタイムに進捗状況が確認できます。「ふくしまの恵み安全対策協議会 放射性物質検査情報」に、その結果が掲載されています(「ふくしまの恵み安全対策協議会」というのは県やJA・消費者団体、さらに、市町村、農業団体、集荷団体などが協力しあってつくっているものです)。

検査の対象は「玄米」であることに注意すべき

 こちらをはじめて見る方、色々と気づくことがあるかもしれません。まず、「スクリーニング検査」と「詳細検査」とが出てきて、少しわかりづらいかもしれません。
 要は「スクリーニング検査」という「網目の大きなザル」で一度検査をして、そこで「明らかに法定基準値を超えてないもの」を外した上で、「網目の小さなザル」=「詳細検査」をする、という2段階チェックをしているというものです。

 ただ、「網目の大きなザル」=「スクリーニング検査」で「法定基準値超えしてるかも」と引っかかっても、必ずしも「網目の小さなザル」=「詳細検査」で法定基準値超えして引っかかるわけではないことにご注意下さい。

 なんでこんなことをするかというと、スクリーニング検査は動画にある通り、流れ作業でスピーティーにできるものなのに対して、詳細検査は一袋あたり何分間単位で、結構時間がかかるためです。
 まずは、大量の袋を短時間で、一袋あたり数秒単位でこなせる「スクリーニング検査」をして怪しいのを抽出して、厳しい取り調べをする、というわけですね。
 そんな2段階チェックをして、効率よく安全性を確保できるような検査体制にしているわけですが、検査の仕組みの細かいことは、「ふくしまの恵み安全対策協議会」ページ内のこちらなどに書いてありますので、興味ある方は御覧ください。

 ただし、「確かに、100ベクレル/kgという法定基準以上の数値は出ていないにしても、51-75ベクレル/kgとか25-50ベクレル/kgとかはそれなりに出てるじゃないか!」という反応もあるでしょう。
 中には「どうしてくれるんだ! 99.99ベクレル/kgとかでも市場に流通してもいいってことだろ! 安全キャンペーンか!」という、威勢のよいリアクションもあるかもしれません。
 実際は、よくデータを見てもらえれば分かる通り、99.99ベクレル/kgなんてものは、現在までになくなってきています。

 さらに言えば、この検査は、「玄米」を検査していることにも注意すべきです。玄米が白米になるにあたり、精米が必要なことは詳しく説明するまでないでしょう。精米すると、この放射線量は大幅に減ると言われています。
 もっと詳しく言うと、玄米を精米し、洗い、炊いて私たちがそれを口にする際には、セシウムの量が玄米の時の1割ほどに減っていると言われています。

 どういうことかというと、セシウムはコメのヌカの部分に蓄積しやすいことが分かっています。そのヌカを削って、玄米は「白米」になるわけです。
 さらに、白米を研いで表面部分を水に洗い流すことで、なおさらセシウムが落ちます。
 その結果、玄米に含まれていたセシウムの9割が廃棄されるんですね。
 細かい検証は、例えば、「玄米、白米、炊飯米の放射性セシウム濃度の解析」にあります。

放射線が気になる人の「選択の自由」も確保されている

 ですが、「法定基準値以下であっても、一定の数字が出たら気になってしまって食べたくない」という方はいらっしゃるでしょう。それは当然尊重されるべき価値観の一つだと私も考えています。
 実際、現在までに、食べない方法、その「選択の自由」を行使する手段が、ある程度確保されてきました。

 例えば、国の基準よりも厳しい、独自基準を決めて流通・販売を行う方針を持つ販売者が出てきています。
 国が定めるコメや野菜の法定基準値は100ベクレル/kgです。コメが1kgあったらそこに100ベクレル以上ある状態だと、アウトになるわけです。
 それに対して、一部の生協や小売店、ECサイトでは、「うちは20ベクレル/kg以下のものしか取り扱っていません」「うちは0.5ベクレル/kgまで計っていて、それ以上のものは売り物にしていません」などと独自に厳しい基準を作り測定・販売を行っているところもあります。国の基準では不安だ、という人はそういうところで食材を買うことができるわけです。

 そのような販路を選ばなくても、そもそも、全量全袋検査は、検査を終えたコメに識別用のラベルがついていて、検査結果のデータを追えるようになっています。そこで選んでいくこともできるような仕組みにはなっています。
「法定基準値以下であっても、一定の数字が出たら気になってしまって食べたくない」という消費者の選択の自由は、一定程度確保されてきていると言っていいでしょう。

 なお、「学校給食で福島県産のコメを使うって聞いたぞ! 子どもは選択できないのか!」なんていう疑問もあるかもしれません。これも基本的には国の基準よりも厳しい基準を定めた上で、「選択の自由」を行使する手段が用意されています。

 例えば、いわき市の事例ですが、学校給食で2014年度のいわき産米を使うことになりました。ここでは、

・国は100ベクレル/kgといっているが、独自により厳格な20ベクレル/kgを基準にして、それを超えたものは給食に使わない
・「いわき産米」を食べるのが不安な場合、「学校給食等停止申出書」を提出して家から弁当を持参したり、「学校給食用ご飯持参届」を提出して家からご飯のみを持参したりは可能

ということが定められました。
 保護者に配られたプリント「学校給食における「いわき産米」の使用について」には、その旨が書かれています。

福島産を避けても放射線のリスクは残る

 こんな話を聞いている中で、根本的なことで疑問に思っている方もいるかもしれません。
「そもそも放射性物質を避けたいならば福島のコメを全部避ければいいんじゃないか?」ということです。
 実際、生協やオンラインの野菜宅配サービスの中には、「北海道・西日本セット」などという名前で、福島だけでなく本州の東日本産の野菜を避けた食材セットも売っていたりします。

 これについてはお気持ちは理解できますが、残念ながら「それが一番安全です」と手放しにおすすめすることはできません。別に福島や近県の農家の肩をもっているからとか、政府の安全キャンペーンに加担しているとか、そういう陰謀論的な話ではありません。

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俗流フクシマ論批判

開沼博

311福島第一原発事故から3年以上経ちますが、今フクシマはどうなっているのでしょうか? いまだ具体的な数字や実態に基づかない情緒的な議論が溢れる中、この連載の目的は、フクシマの問題について「論理とデータを通した議論のベースの再設定」す...もっと読む

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コメント

lilyzcraft リプ欄で未だに福島産食材は汚染されてるとか言ってるヤツはとりあえずコレ読め https://t.co/SBKuwjCXPu 1年以上前 replyretweetfavorite

cinefuk #食の安全「放射性物質について全量検査された福島産米より、検査をしていない西日本の米のほうが安心」という考え方は、豊洲移転問題にも似ているような気がする 約3年前 replyretweetfavorite

putyan 「 福島産を全部避けるのが一番安全」は本当か!?  検査の対象は「玄米」であることに注意すべき 開沼博氏 https://t.co/j3dbvjM8yZ 3年以上前 replyretweetfavorite

Josephine_smk これとか何回読んでも本当に勉強になる。数値やデータが出ててもいまだにイメージで言う人が多いのは心の底から残念。 【 3年以上前 replyretweetfavorite