服用前の注意「みんなで信じれば存在します」
『妖怪ウォッチ』が流行っているというので見てみました。
アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』主題歌によると「お化けにゃ学校」はないはずでしたが、妖怪ウォッチによると学校も試験もあるようです。
妖怪ウォッチに出てくるそれぞれの妖怪は、
私にとって残念なのは、妖怪ウォッチに出てくるような妖怪が「もしかしたら本当にいるかも」と感じることができない点です。
オトナってツマラナイですね。
でもオトナになったら妖怪を信じられないと決まっているわけではありません。昔はオトナでも妖怪を信じていたのです。
その証拠に、古い医学書にも出てくるのです。妖怪についての記述が。
今回は医学書の中に記録されている妖怪の中から
左:鳥山石燕『画図百鬼夜行』、右:佐脇嵩之『百怪図巻』、[Public domain], via Wikimedia Commons
姑獲鳥
姑獲鳥という名前は、映画化もされた京極夏彦のベストセラー小説に『姑獲鳥の夏』という作品があるので、聞いたことがある方も多いと思います。
姑獲鳥は中国の古い書物『玄中記』に「鬼神」の類であると記載されている鳥のような妖怪です。
私の連載を以前からお読みの方にはお馴染みの明代の医学書『本草綱目』には、姑獲鳥についての記載があります。
『本草綱目卷』明李時珍撰(国立国会図書館デジタルコレクションより)
そこに記されている姑獲鳥には次のような特徴があります。
①羽毛をまとうと鳥になり、空を飛ぶことができる。羽毛を脱ぐと女になる。
②死んだ産婦が姑獲鳥になるので姑獲鳥には乳房がある。
③人の子供を奪って自分の子として育てる。
④荆州に多い。
⑤7月、8月の夜に飛行する。
姑獲鳥は女性が
夜間に子供の服を干していると、目印として血を付けてゆくとされています。
怪奇じみた記録と無辜疳という恐ろしい病
このような妖怪の記録がなぜ医学書に記載されているのかと申しますと、姑獲鳥は
医学書『幼科証治準縄』には、無辜鳥(つまり姑獲鳥)が夜飛行中に子供の服の上に放尿し、これが原因で子供が無辜疳に罹るとの説が記録されています。
無辜疳に罹ると後頭部に弾丸のような「核」ができて触ると下へ移動します。
この「核」は最初は軟らかく痛みもありません。しかし「核」の中には虫がいて、この虫が体中に散らばると臓腑を蝕み、できものができて、血便が出て……、とにかく悲惨ですので一部省略しますが、最期は死んでしまうのです。
病気の原因、病気の経過、病気の結末。どれをとっても不気味で怖いですね。妖怪ウォッチのような楽しさは微塵もありません。
ただしこの病気は夜に子供の服を干さなければ防げるのが救いです。
姑獲鳥についての記録は他にもあります。
例えば姑獲鳥にはもともと10本の首があったけれども、1本を犬に噛み千切られたため9本になったという説があります。
姑獲鳥が犬を極度に恐れるとされていることや、姑獲鳥に九頭鳥という別名があるのはこのためです。
また噛み千切られたところから滴る血が、子供の服に付ける目印になると解釈できます。
九本の首を持つ鳥。現代の私たちが聞けば完全なファンタジーです。しかしこうした妖怪にリアリティーを感じていた時代もあったのです。
漢方が形成された時代とは、そういう時代でした。ですから漢方にはオカルト的な要素が混じっているのです。
妖怪の影にあるリアル
姑獲鳥は現実には存在しないとしても、無辜疳という病気は実在したのではないかと思います。
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