このところ、東京でとみに増えているものといえば、海外からやって来る観光客の姿です。銀座、原宿、秋葉原の街角で耳を澄ませば英語に中国語、さまざまな言葉が飛び交っているのに気づきますよ。
両国駅前で威容をたたえる江戸東京博物館も、海外観光客が続々と押し寄せる場所のひとつ。日本の伝統、東京の歴史がよく理解できる場所として、おそらくほうぼうのガイドブックで紹介されているのでしょうね。
同館では現在、企画展「探検!体験!江戸東京」が開催されておりますよ。所蔵する絵画、資料、発掘品から、選りすぐりを一堂に並べようというもので、海外からの訪問客も、日本に住む人にもずしりと見応えある展示です。
江戸城から日本橋、吉原までが描き込まれた江戸の名所図会。発色も豊かな浮世絵。徳川政権が発布した「武家諸法度」。江戸期に使われていた巨大な桶があるかとおもえば、東京大空襲で焼けた痕も生々しい子どものチャンチャンコも。さらには、1920年代に使われたフォードT型ツーリングカーまでが、会場には置いてあります。何百年にもわたって、世界的な大都市であり続けている東京ですからね、そこで育まれた文化はかくも幅広いのです。
小学校や中学校の歴史教科書に載っているような品々に目を奪われながら、会場を巡っていると強く感じるのは、江戸のころから現在にいたるまで、ここはずっと「デザイン都市」だったのだなということ。
たとえば、展示の前半に登場する《踊形容江戸絵栄》は、歌舞伎見物の様子を俯瞰で描いたもの。舞台上の役者の姿が華々しいのはもちろんですが、それだけじゃない。客席も含めた小屋全体が、晴れの場として見事に構成されていることに、改めて気づきます。色合いもきれいですしね。展示品にはありませんが、両国国技館をはじめ大相撲が執り行なわれる会場なんかも、全体がひじょうにうつくしいですよ。土俵上で繰り広げられる勝負の行方も気になりましょうが、同時に、日本の伝統色に満ちていたりして、きわめてデザイン性に富んだ空間がつくり出されています。日本の伝統芸能が、いかにアーティスティックでビジュアル面に優れているか、この一枚が教えてくれます。
《踊形容江戸絵栄》初代歌川国貞/画 1858年(展示期間:1/6-2/1)
また、かの名高い《解体新書》も置いてあって驚きます。江戸時代に杉田玄白が、オランダの医学書と首っ引きになりながら完成させた医学書ですね。歴史的な価値も高いでしょうけれど、実際に目の当たりにすると、ブックデザインと誌面レイアウトの質の高さに感じ入ります。当時も現在も、日本が世界に冠たる出版大国であり、誰しも書物への造詣がひじょうに深いのだということに気づかされますよ。