「あなたは『好きを仕事に』なんていう、キラキラした言葉に人生をかけすぎている」
坂井の言葉の意味を理解しきれずにいた美沙は、席に戻ってからも悶々とした思いから抜け出せずにいた。「キラキラした言葉」というのは、「好きなことを仕事にしたい」ということを指しているのだろうか。確かに、今の美沙は「好きなことを仕事にしたい」と思っている。人生をかけているとも言える。そのことのいったい何がいけないというのだろうか? 悪いことというより、むしろ良いことなのではないだろうか?たくさんの疑問符は一向に姿を消す兆候を見せない。
坂井の真意を聞くためにも、美沙はふたたび話の場を設けてもらおうと決意した。
自身でもわかっている。こんな面談を繰り返すことが馬鹿げているということは。しかし、やはり、このまま放っておくことなんてできない。表立って自己を主張することはニガテな美沙だが、納得のいかないことはどうしても黙っていられないのも、美沙だった。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。