作品をこう受け取ってほしい、という意識は一切ない
—— 虚淵さんの作品は、いずれも「ダークな作風」と言われたり、「ハッピーエンドじゃない」などと言われることが多いと思います。執筆しているときは、そうした読者や視聴者の反応をどれくらい意識しているんでしょうか?
虚淵玄(以下、虚淵) 真面目に意識したのは後にも先にも『仮面ライダー鎧武』くらい。あれは僕にとってはお客さんが特殊なジャンルだった。子供向けに何かを見せるというのはデリケートなので、自分なりに考えた結果があの作品です。
—— 意外です。ふだんは意識していないんですね。
虚淵 お客さんに対する信頼があるので、いつもは物語の設計に専念しています。「どうとでも受け取ってもらえばいい」と思っているんですが……さすがに子供向けとなると、信頼ありきじゃなくなってくる。もしかしたら初めて見る娯楽作品が『鎧武』かもしれないと考えると真面目になります。
—— 特に気をつけたことは?
虚淵 嘘をつかないこと、ごまかさないこと。
—— たしかに、「どうして悪い子になっちゃいけないか……嘘吐き、卑怯者、そういう悪い子供こそ、本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ!」など、世の中の真理をついたセリフがもりだくさんでした。
『鎧武』はまさにそうですが、作品を発表するごとに、虚淵さんのファン層はどんどん広がっているように思います。そうした広がりが、作り方や物語の組み立て方に影響を与えていたりはしませんか?
虚淵 ファン層に関しては、そこまで作り手が意識するところじゃないかな、と思っています。特に映像の場合、脚本家は直接お客さんの目に触れる物は作らない。ある種そこは楽観視しています。実際できあがったものを、どういうふうに日常の中に取り込んで解釈するかは、見る人それぞれの自由な場所。「こう受け取ってほしい」「こういうメッセージを伝えたい」といった啓蒙的な意識は僕の中には皆無ですね。
今回の『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』だってそうです。話のネタにしてくれてもいいし、デートコースの添え物でもいいし、じっくり考えて違う解釈をしてくれてもいい。
女性ファンは「よく噛んで食べる」?
—— 虚淵さんのお話を聞いていると、ファンへの信頼を感じます。虚淵さんのファンは男性も女性も多いですが、受け取り方に違いはありますか?
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