三谷宏治 Vol 3. 『経営戦略全史』はいかにしてベストセラーとなったか

「ビジネス書大賞2014」で大賞を、「ダイヤモンドHBR読者が選ぶベスト経営書2013」で第1位を受賞した『経営戦略全史』。2014年9月に発刊された『ビジネスモデル全史』も、すでに4万部を超えるヒットとなっています。これらの本は、どのようにして書かれたのでしょうか。そして、三谷さん流の「締切に追われない秘訣」とは。

「締切ギリギリ」は、ムダだらけである

— 三谷さんが2013年に出された『経営戦略全史』そして、2014年の9月に出された『ビジネスモデル全史』はベストセラーとなりましたね。他のお仕事と平行して本を書くのは大変なことだと思うのですが、やはりけっこう締切に追われる感じになるのでしょうか。

三谷宏治(以下、三谷) いや、私は締切ギリギリが嫌いなので、そうならないようにしています。それは、子どものころからそうでした。学生時代の締切って、中間や期末のテストですよね。テストが迫ってきて慌てて勉強するのが嫌だったんです。だからちゃんと予定を立てて、締切に追われないような仕組みをつくっていました。例えば、60分単位で45分勉強して15分休憩するとか。けっこう休みをとるんです。

— バッファーをつくるんですね。

三谷 そうそう。1週間のスケジュールだったら、6日で終わる計画にして、計画通りに進めば試験前の1日は遊べるようにしたり(笑)。それを実現したいがためにがんばる、みたいなことをしていました。社会人になってからはそれをさらに意識するようになって、仕事の進め方について『コンサルタントの整理術』という本も書きました。

— 本には、仕事を渋滞させないためにどうするのか、と書いてありますね。

三谷 そのために、仕事を「分け」たり「減らし」たりする工夫をしましょうということです。特に「早めにやる」ことで、自分のペースや体調に合わせて仕事ができます。単純作業はあんまり頭が働いていないときにやればいいし、企画を考えるなどの頭を使う仕事は調子がいいときにやる。調子が悪いときに、がんばって考えようとしても、生産性は絶対上がりません。でも、締切が迫っていて、明日までにやらなければいけないというときは、そういう配分もできませんよね。さらにまずいことに、直前になってデータがないとか、自分の手には負えないなんてことがわかったりする。そういうリスクを防ぐためにも、「早めにやる」ことが大事なんです。

— 締切に追われることで、火事場の馬鹿力が出る、ということを言う人もいますよね。

三谷 それはね、幻想だと思うんですよ(笑)。まあ、ピンチを切り抜けると高揚感も生まれますし、やり遂げたら達成感もあるでしょう。でもその仕事、もし早めにやっていたら、見直しして、手直しもできるし、もっとクオリティが上がっていたかもしれません。間に合わせるというのは、マイナスをゼロにしただけなんです。しかも、そのために他の仕事をストップして、チームメンバーが2〜3日そのリカバリーをするとか、本当にムダですよね。

— た、たしかに……。

三谷 と言いながら、実はわたしは混沌も好きなんです。プロジェクトのはじめは作業計画どころか、指示をほとんど出さないんです。「なにか、おもしろいものを見つけてきて」と言うだけ。で、みんなものすごく苦しむ(笑)。

— それは、何をしていいかわからない人も多いでしょうね……。

三谷 手早く、契約通りに済ませようと思ったら、私が全部指示するほうが効率いいです。でもそれじゃあ自分としておもしろくないし、人も育ちません。向き不向きもありますが、自由度の高い状態でやってもらうと、人は伸びますよね。チームでプロジェクトを進めるときは、そういうふうにしています。

— それも、仕事を早めに進めるからこそ、できることですね。

三谷 そうですね。試行錯誤できる時間をつくるためにも、締切に追われないようにすることが大切です。

表紙のデザインから、タイトルが決まった

『経営戦略全史』、『ビジネスモデル全史』など三谷さん著書

— 『経営戦略全史』、『ビジネスモデル全史』を書くのに参考にされた本はありますか?

三谷 『経営戦略全史』で言うと、大きいのはこれでしょうか。『経営戦略の巨人たち』。これは、経営戦略コンサルタントを主人公にした現代史です。マッキンゼーやボストン コンサルティング グループ(BCG)ができていった過程などを中心に描いています。

三谷 あとは、『戦略サファリ』。これは、戦略マネジメントを10の学派に分類して書いてある本です。参考にはなるんですが、10派はちょっと多すぎるかなと(笑)。

三谷 『ビジネスモデル全史』のときは、この『インビジブル・エッジ』がとても参考になりました。このタイトルは、知的財産というのは見えない刃、見えない競争優位なんだという意味と、ジレットの替え刃モデルがいかに知財によって守られているかという、髭剃りの「刃」のダブルミーニングになっているんですよね。

— けっこう、ページを折りながら読まれるんですね。

三谷 そうですね、大事なところは。特に「ここはすごい」というページは下も折るんです。本をきれいにしてとっておきたいという気持ちはあまりないんですよ。読み込むほうが大事です。

— こっちの壁にも本棚が。

三谷 「全史」シリーズのタイトルは、ここにある『人類の足跡10万年全史』からとりました。かっこいいなと思って(笑)。でも、当初はさすがに『経営戦略全史』ではちょっと固すぎるということで、出版社のディスカヴァーとしては『ビジネス戦略全史』というタイトルに、副題として「経営戦略論の100年史」とつけよう、という話だったんです。けれど、最終的に装丁家の吉岡秀徳さんから、この表紙デザインがあがってきて。

経営戦略全史 50 Giants of Strategy (ディスカヴァー・レボリューションズ)

三谷 これならやわらかく見えるから『経営戦略全史』でいこう、ということになったんです。そして、思い切って副題もとりました。

— たしかに、『経営戦略全史』というタイトルをあちこちで見かけるようになったときは、古典的というか、すごく固い教科書的な本が売れているんだな、と意外な感じがしました。そして、書店で表紙を見たとき、「この本だったのか!」と納得しました。

三谷 普通、『経営戦略全史』というタイトルだったら、「経営戦略」に重きをおきますよね。それが、まさかの「全史」推し(笑)。このフォントも、吉岡さんがオリジナルでつくったそうです。他の装丁家の方が、「これは絶対、自分には思いつけないデザインだ」と言っていました。

— 中のページデザインも斬新ですよね。

三谷 私がこだわったのは、トピックと図を一緒のページに入れてほしいということでした。だから、各ページ、下が大きくあけてあって、上と横の余白をギリギリまで無くしてあるんですよね。強調するところは、太字にしたり、文字を大きくしたりしてあって、フォントも5種類以上使われています。

— ビジネス書らしからぬ、丸いフォントも使われていますよね。

三谷 そうなんです。でも、全ページ考えぬかれたレイアウトになっているので、不思議と統一感があるんですよ。これは本当に、吉岡さんの卓越したセンスのなせる技だと思います。この「全史」シリーズがヒットして、とてもデザインの似た本がいくつか出たのですが(笑)、やっぱりどこか落ち着きのないデザインなんですよね。

大学生も戦略コンサルタントも楽しめる本に

— もともとこの本は、どのような経緯で書かれたのでしょうか。

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