イラスト:長尾謙一郎
柴那典(以下、柴) ここからはそれぞれの「2014年のベスト5曲」を挙げて、併せて心のベストテンってことで、語っていこうと思います。まずは5位から。大谷さん、どうですか?
大谷ノブ彦(以下、大谷) 僕の5位はマイケル・ジャクソンの「Love Never Felt so Good」。今年を代表するナンバーだと思います。
大谷ノブ彦の第5位
→マイケル・ジャクソン「Love Never Felt so Good」
柴 亡くなって5年経ったマイケル・ジャクソンの新譜が出たというのは、2014年の大きなトピックスでしたね。
大谷 そう。今もマイケルはみんなの心のなかに残ってる。前にも言ったけど、再生ボタンを押せば音楽は何度でも蘇るんですよ。
大谷 しかも今年はクイーンもフレディー・マーキュリーとマイケルがデュエットしている未発表曲を出した。こういう形で音楽を通してポップスターがよみがえる流れは、今後もあると思いますよ。
柴 日本でもかなり話題になりましたよね。
大谷 ジャスティン・ティンバーレイクも『スーツ&タイ』以降ちょっと勢いが落ち着いていたのが、これで息を吹き返しましたからね。それにアルバム『エスケイプ』は、日本盤のデラックス・エディションが10万枚以上売れてる。そういう意味でも希望があるなって思います。
柴 じゃあ、僕の5位はゲスの極み乙女。「猟奇的なキスを私にして。」です。
柴那典の第5位
→ゲスの極み乙女。 「猟奇的なキスを私にして。」
大谷 アルバム『魅力がすごいよ』、めちゃめちゃ良かったですよね。
柴 しかも売れた。今年デビューした邦楽のロックバンドでは一番のブレイクだったと思います。ただ、サビのメロディはキャッチーだけど、このバンドはよく聴くとかなり凝ったことやってるんですよ。
大谷 テンポも前の作品からは明らかに落としてきてますよね。でも今までのゲスの極み乙女。が好きだった人も楽しめる。
柴 おそらくソングライターの川谷絵音という人は5年先を見ているんじゃないかと思います。シーンの流れに迎合するんじゃなくて、もっと自由な発想のポップを作っていこうとしている。「今の時代は速いテンポで興奮をあおるバンドがウケる」というのがわかっていながら、リスナーの欲求に応えるだけじゃない。
大谷 それに、彼らはちゃんと企画性を持ってノベルティソングを作るっていうところから始まってるバンドなんですよね。僕は「パラレルスペック」が一番好きだな。これを聴いて、ほんとにいい曲だなあと思った。曲がいいんだ、このバンドって。
柴 ソングライティングが冴えてますよね。単に人気や勢いがあるっていうだけじゃなくて、彼らのアルバムは音楽をやってる側の人にも刺激を与える気がする。これは僕の勘ですけれど、数年後に振り返ったらこのアルバムの真価がよりはっきりしそうな気がします。
大谷 それに、次のアルバムでまたがらりと変わってるかもしれない。
柴 むしろどんどん変わっていってほしいですね。彼らにはもっとハチャメチャなことをやってほしい。
大谷 次は僕の4位。きのこ帝国の「東京」です。
大谷ノブ彦の第4位
→きのこ帝国「東京」
柴 きのこ帝国はずっとインディーで評価が高いバンドで、もともとシューゲイザーっぽいところもあったんだけれど、この曲で歌モノとして大きく開眼しましたね。
大谷 いやあ、ほんとにいい曲だよね。ちょっと話は飛ぶけど、くるりのニューアルバムって、今のポップのあり方にきっちりと対峙したロックバンド側からの回答だと思ってるんです。あれは本当に今年を代表する一枚だと思う。そして、僕の中でもう一つ象徴的なのがきのこ帝国。
柴 くるりに関しては、後ほどじっくり語りましょう。
大谷 彼女がロックバンドを選んだことに希望を感じるな。それに、くるりもそうだけど、「東京」っていうタイトルの名曲はもうたくさんあるんですよ。でも、その中でもまた1位を更新したんじゃないかって思うくらいの曲。
柴 東京という街の描き方もいいですよね。「ここであなたに出会った」ということをまっすぐ歌っている。
大谷 やっぱり、東京ってボーイ・ミーツ・ガールの物語に一番似合う街だと思うんですよ。(聞きながら)もう、とにかくいい曲。何年に一度しか生まれないタイプの曲だと思います。