人の人生を変える仕事

2014年最後の「ワイングラスのむこう側」、今回はバーテンダーである林伸次さんご自身のお話です。20歳のころ、恋人とともにロンドンに滞在していた林さん。そこで出会ったポルトガル人に言われたことを今でも思い出すそうです。林さんの人生を変えたかもしれない一言。そんな言葉は、意外とこんな感じなのかもしれません。

ロンドンで出会ったポルトガル人に言われたこと

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

僕は20歳の頃、当時の恋人と一緒に、ロンドンに2ヶ月ほど滞在したことがあります。飛行機のチケットは往復ではあるものの、帰りの日は決めずに、半年か1年くらいは住むつもりでした。日本でバイトを重ね、それなりの金額をトラベラーズチェックに変えて、ほとんど決死の覚悟でロンドンに乗り込みました。

いずれ安めのアパートを借りようとは思っていたのですが、最初はロンドンに慣れるために色んな人たちとコミュニケーションをとろうと思い、いくつかのB&B(イギリスのベッドとブレクファストだけの安ホテル)を転々としました。

そしてパディントンという駅のモノポールというB&Bで、あるポルトガル人男性と仲良くなりました。彼はそこのスタッフで、受付から朝食の用意やベッドメイキングまで全部こなしていました。ポルトガル人は出稼ぎでイギリスに行くことが多いらしく、彼もそんな労働者の一人でした。

ポルトガル人の話す英語は母音をはっきり発音するあたりが日本人の僕にもわかりやすく、僕は慣れない英語を少しでも上達させたくて、彼が暇そうなときを見計らっては話しかけました。

ある雨の日の午後のこと。そのポルトガル人の彼と、僕と、僕の当時の恋人と3人で話していると、彼がこんなことを言ってきました。

「君たちは恋人どうしなの?」 「そうだよ」 「愛し合ってるの?」 「もちろん」 「結婚は考えているの?」 「いや結婚はまだかな……」 「どうして?」 「いや、まだまだ僕たちは若いからね」 「愛し合っているのなら結婚した方が良いよ」

その後、僕たちは一緒に滞在していた部屋に戻りました。僕はイギリスのテレビをぼんやりと眺めながら、さっきのポルトガル人の彼の言葉について考えました。そして僕は彼女に「結婚しようか」と言いました。でも彼女はさすが女性なので現実というものをしっかりと見ていて、「まだ結婚は早いんじゃない」と軽く断られました。

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この連載について

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ワイングラスのむこう側

林伸次

東京・渋谷で16年、カウンターの向こうからバーに集う人たちの姿を見つめてきた、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主・林伸次さん。バーを舞台に交差する人間模様。バーだから漏らしてしまう本音。ずっとカウンターに立ち続けて...もっと読む

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コメント

Diegopepe33 人生変えられちゃうくらいのあの時のあの一言・・みたいなのって確かにあるなあ、と。 4年以上前 replyretweetfavorite

hazkkoi バーも「退屈な後ろに残してきた日常の世界」から「異次元の世界」へと飛び込む「境界」だと僕は思っています。 4年以上前 replyretweetfavorite

Quishin 作家もそうですよね。 4年以上前 replyretweetfavorite

zen_eno |ワイングラスのむこう側|林伸次 @bar_bossa |cakes(ケイクス) 良い話 https://t.co/04Ltn0yxAt 4年以上前 replyretweetfavorite