農業関係者のバズワード「六次産業化」を知っているか

「福島の農業の問題とは、日本の農業の問題である」ことを、前回解説しました。では、その日本の農業の問題にどう立ち向かっていけばいいのか。 一つは、付加価値をつけること。一つは、合理化を進めることです。 まずは「六次産業化」というキーワードを手掛かりに、「福島の農業=日本の農業」について、社会学者の開沼博さんが考察していきます。

「六次産業化」ってなんだ?

 前回、「原発事故のせいで」とか「風評被害が」とかとは別の問題として存在する、震災前からの構造的な問題が顕在化して、生産力が弱まっていることを指摘し、なおかつこの減少分は遅かれ早かれ減る運命にあったもので、3・11によって「潜在的な農業引退者」が日本の他の地域に先駆けて顕在化したことを示していきました。

 じゃあ、この根深い、「福島の農業の問題」であり「日本全体の農業の問題」にどう対処していくのか、という話をしていきたいと思います。私自身含めて、農業に直接携わっているわけでもないし、専門家でもない人間は、大きく分けて2つの方向で理解しておけばいいでしょう。

 一つは付加価値をつけるということ。もう一つは合理化を進めるということ。

 経営学の教科書には、「利益を増やすにはどうするか。それは、収入を上げるか支出を減らすかの2つだ」と、言われないでもわかるだろう、ということが書いてあったりしますが、それと同じような話です。

 まず、「収入を上げる」については、付加価値をつけるということです。
 例えば、「六次産業化」です。

 そもそも「六次産業化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは聞いたことがある人は、毎日のように死ぬほど聞いています。地方の一次産業に関わっている人とか、地域おこしをやっている人とか、東北の復興に関わっている人とか、大袈裟ではなく1日5回は耳や目から入ってくるという人もいるでしょう。
 私も、結構一般的になっている言葉かなと思ったら、都会での講演で話しても全然通じないので、これはだいぶ認知にギャップが有る言葉だなと思いました。

 例えるならば、「妖怪ウォッチ」みたいなもので、「妖怪ウォッチ」を知らない、一度も聞いたことない人は、普段生活している中でどこかで視界に「妖怪ウォッチ」の何かが入ってきていても一切気づかないけど、「妖怪ウォッチ」が何かを知っている人は、子どもが近くにいるとかサブカル好きとかで、毎日いたるところに「妖怪ウォッチ」現象が起こっていることに気づいている、みたいな。
 知っている人はものすごく意識せざるを得なくなっているし、知らない人は一切意識しないまま過ごしている、というような言葉です。

 で、「六次産業化」とは何なのか。聞いたことない方向けに簡単に説明してみます。
 例えば、ご自身がキャベツ農家だと思って下さい。スーパーで1玉100円で売っているキャベツを作ったとしましょう。その時、100円がそのまま自分の手元に入るわけではありませんね。農協に持って行くと梱包してくれて、それを流通業者が運んで、スーパーで値札を付けられて販売される。
 わかりやすく、そのプロセスの経費が半額の50円だとしましょうか。そうだとすると、ご自身の手元にはキャベツ1玉で50円の利益が入るわけです(厳密に言うと、そんなに利益は出ません。他の原価として肥料とか農薬とかトラクターのローンとか色々引かなければなりませんが、とりあえず便宜上、細かい話は置いておきます)。

 ただ、「1玉50円だと1日200玉作って、やっと1万円。利益をもっと増やしたい」と思うかもしれない。そこで、「六次産業化」です。
 例えば、スーパーに出せば、1玉100円で売られ、自分の手元の利益が50円になるキャベツがいま目の前にある。これを4分の1にカットして、浅漬けにします。4分の1カットずつプラスチックパックに入れて、「山田さんちの採れたてキャベツ、無添加・手作り浅漬け」とか自分でデザインしたシールを貼ります。浅漬けが4パックできました。それを1パック200円で、家の近くの通り沿いに作った直売所で売ります。
 それが「美味しそうだ」と4つ完売すると、売上が800円になります。

 浅漬の調味料とかプラスチックパック、シール代、あと直売所の運営費などの費用を、いくらぐらいにするかは難しいですが、浅漬の調味料やプラスチックパックなどパッケージとかについてはかかって数百円とかでしょうか。もろもろ込みで、仮に500円だとしましょう。そうすると、売上が800円の費用が500円ですから、利益が300円です。
 ここで何が起こっているかというと、キャベツ1個あたりの利益が50円だったのが、300円と6倍になったわけですね。これが「付加価値をつける」ということです。

「六次産業化」と聞いて、普通は「一次産業、二次産業、三次産業とは聞いたことあるけど、六次産業とはなんだ」と思うでしょう。「六次産業」という特定の産業はありません。ではなぜ「六」なのかというと、「一次(生産)」「二次(加工)」「三次(販売・ブランディング)」を全てカバーしてしまうことで、付加価値をつけているからです。

 生産(一次)だけして農協に出して50円もらうのではなく、手間はかかるけど加工(二次)や販売・ブランディング(三次)まで自分で担って「山田さんちの採れたてキャベツ、無添加・手作り浅漬け」を作って、付加価値をあげて利益を増やす。「一次+二次+三次」または「一次×二次×三次」で「六次産業化」と呼ばれます。
 この話は「六次産業化」を知っている人には常識すぎる話です。知らない人には「なるほど」という話かもしれません。

「物語」で付加価値をつける

 まあ、こういう付加価値の付け方を考えていく、というのが、「日本全体の農業の問題」にどう対処していくのかという問いへの一つの答えです。
 ここで重要なのは、味や見た目はもちろんですが、何よりも「物語」です。「物語」があることで、ただ値段が安い、味がいい輸入品に、多少値段が高くても勝てます。

 福島県内だと、例えば、「いわきのトマト」。これは色んな売り出し方をしています。例えば、「夜明け市場」といういわき駅前の復興飲食店街では、いわきのトマトを売りだそうと、トマトリキュールで味付けをした「夜明けハイボール」というハイボールを出してくれます。外からいわきに行ったらとりあえず飲んでおきたい気にさせてくれますし、いわきのトマトを買って帰るか、と思う人も実際多い。

 あと、「福島市のモモ」が震災後注目されるようになりました。以前に書いたとおり、「福島といえばモモ」と認識している人は必ずしも震災前には多くはなかったのではないでしょうか。ただ、震災後、比較的放射線量が高い福島市の果樹農家などが再びモモを盛り上げようと頑張って、知名度も販売量も上がった部分があります。
 六次産業化という意味では、JA新ふくしまが「桃の涙」というモモリキュールを作って売り出し始めたりしました。ネガティブな事態も、ポジティブな物語に転換して付加価値となった事例だといえるでしょう。

 もちろん、このように物語を押し出すことの一方には反発もあります。例えば、2014年8月に糸井重里さんが「福島に行ったら、こんなふうに桃を買えるんだよ〜ん。」とTwitterに投稿したところ、それは危険なのではないか、と反発を受けた事例もありました。
「糸井重里さん『馬鹿にされたような思いになる』 福島の桃への中傷に怒り」
 3・11の物語をからめようとする中で、そういう「向かい風」が発生することは、いまでもあります。ただ、そのような反応が、この記事にもある通り「不正義」なものととらえられてくるようにもなってきました。

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俗流フクシマ論批判

開沼博

311福島第一原発事故から3年以上経ちますが、今フクシマはどうなっているのでしょうか? いまだ具体的な数字や実態に基づかない情緒的な議論が溢れる中、この連載の目的は、フクシマの問題について「論理とデータを通した議論のベースの再設定」す...もっと読む

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narniancat 「六次産業化」??? 5年以上前 replyretweetfavorite