感情のプログラミング
—— 怒ることができなかった? それは、何歳くらいのことですか?
石黒 小中学校のころに自覚しました。大学で助手をやるまで「怒る」ということがなかったんですよね。人がなぜ怒るのか、不思議でしょうがなかった。「怒る」なんてまったく不毛なんですよ。お腹減るし、エネルギー使うし……そんな暇なことよくやってるな、と思っていたんですよね。でも、大勢の人間をたばねるときには怒ることも必要で、だからがんばって練習しました。
—— その話、ぼくにはとても共感できます。実はぼくも同じようにあまり怒ることがないのですが、その理由というのがまったく同じで、「怒る」なんて無駄だと思っているからです。しかし……練習すれば怒れるものなんでしょうか? あと、それって本当の感情といえますかね?
石黒 心理学の下條先生(カリフォルニア工科大学教授 下條伸輔)が、「感じるから行動するのと、行動するから感じるのと、どっちが先か? それは両方だ」という話をされていました。イチローは、生まれてすぐ野球やりたい、と言ったわけじゃないし、生まれてすぐ野球が好きだって言ったわけではない。行動してると、感情は自然に芽生えてくるものなんです。
—— なるほど。僕は、先生と同じで、人にもともと心があるとは思っていないほうなのですが、それでも「心」とか「気持ち」って幼少期にプログラムされるじゃないですか。石黒先生がそれをうまくわからなかったのは、教育のせいとか、そういうのもあるんですか?
石黒 かもしれないですね。僕はね、今でもちょっと覚えているのは、小学校5年くらいのときに、親に「人の気持ちを大事にしなさい」って言われて。めちゃめちゃドッキリしたんですよ。
—— それはどうしてですか?
石黒 だって、わからなかったから。「人」、「気持ち」、「考える」。どれもなに一つわからなかったです。
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