統計学と計量経済学の「表面的」な違い
計量経済学者とは経済学分野で統計学を用いる人たちの呼び名であるが、計量経済学と統計学の境界は少々見えにくいものかもしれない。
何十年か前であれば「社会や経済を扱っていれば計量経済学者」「農業や医療に携わるのが生物統計家」と素直に見分けられたのかもしれないが、生物統計学の中で生みだされた手法は現在では多くの分野で使われるようになっているし、それは計量経済学者たちにしても例外でない。というか、現代においてはフィッシャーやピアソンの生み出した手法や考え方を、わざわざ「生物統計学」ということのほうが珍しくなっている。一般的に「統計家」と言えば、心理学や社会調査などの明確な区別がない限り生物統計学をバックグラウンドとした統計学をトレーニングされた者であることが多い。
たとえば現在の雇用有無を結果変数、教育を受けた年数や過去の世帯収入、人種、居住地域といった社会的属性を説明変数とした回帰分析は、計量経済学者が行なうこともあるし、社会学分野の統計家が行なうこともあるだろう。だがそのような中でもやはり計量経済学者は統計家として特殊な立場にある。
表面上の違いをあえて挙げるならば、計量経済学者のほうが統計家よりも交互作用項を含む説明変数の選択についてより慎重な検討を行なう傾向にあるかもしれない。また、彼らはしばしば説明変数と結果変数の間に直線的な関係性だけでなく、以前データマイニングと統計学の違いのところで述べたような曲線的な関係性を考えることもある。たとえば単純に世帯年収を説明変数、生活に対する満足度を結果変数として回帰分析を行なった場合の回帰係数は、「年収が100万円増加した場合の効果はすべての人にとって平均的に同じ」と考える(図表1)。
図表1 直線的な関係性
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