イラスト:長尾謙一郎
大谷ノブ彦(以下、大谷) 今回はフー・ファイターズの新譜について話したいんです。これが素晴らしいんですよ!
大谷ノブ彦 PLAY→Foo Fighters「Something From Nothing」
柴那典(以下、柴) 久しぶりにアルバムがリリースされましたね。『ソニック・ハイウェイズ』。これはどういうところがポイントなんでしょう?
大谷 彼らはアメリカのロックの歴史を、自分らで物語化してるんですよ。
柴 なんでそういうことやろうとしたんでしょうね。ニルヴァーナのカート・コバーンが亡くなってフー・ファイターズが結成されてから20周年のタイミングだからかな。
大谷 これまで、アメリカのロックバンドはそういうことをしてこなかったんですよね。歴史を掘り下げなかった。むしろダフト・パンクとかアークティック・モンキーズとかアデルとか、ヨーロッパのミュージシャンがやっていた。
一方で、彼らフー・ファイターズは一昨年から活動休止していた。おそらくバンドとしてやりきっちゃったんでしょうね。
柴 フェスのヘッドライナーもやったし、グラミー賞もとったし、いろんな成功も手に入れたわけで。
大谷 で、「この先どうすればいいのか」を考えた結果、ボーカル・ギターのデイヴ・グロールは映画を撮りたい、って言い出すんです。自分が監督してドキュメンタリー映画を作りたいって。
柴 その映画と新作がリンクしている?
大谷 そうなんです。今回のアルバムは8曲入りなんですけれど、アメリカの各都市に行って、ライブハウスやスタジオに取材して、その都市とロックがどう交わってきたかをドキュメンタリーとして撮ってるんですよ。で、それを元に歌詞を書いて、そのスタジオでレコーディングしている。
(Foo Fighters Sonic Highways: Trailer (HBO))
柴 すごいコンセプトですよね。
大谷 で、これがアメリカの大きなケーブルテレビ局でドキュメンタリー番組として放映された。映像作品としてしっかり制作費をかけて作られていて、これがアメリカでものすごく評価が高いんです。日本ではWOWOWで放送されているんで僕も観たんですけれど、これがめちゃめちゃおもしろい!
柴 アメリカの音楽シーンがどういう成り立ちなのを追っているわけですよね。これは確かにおもしろそう。
大谷 そういう音楽文化を、それぞれの都市の伝説的なレコーディング・スタジオやレーベルのエピソードから解き明かしていくんです。ニール・ヤングとかスティーブ・アルビニとか、すごいメンツにしっかりインタビューをしている。
柴 ニール・ヤングはロックの大先輩だし、スティーブ・アルビニはデイヴ・グロールがニルヴァーナ時代にプロデューサーだった。それぞれつながりもありますね。
大谷 そう。そこから、だんだんわかってくるんです。なんでアメリカのバンドは歴史を掘り下げなかったのか。
柴 それはなぜだったんですか?
大谷 音楽シーンが、実は都市ごとに独立しちゃってるんですよ。だから他所でやってることに関わりを持たなかった。
柴 なるほど。日本から見るとアメリカって一つの国だけれど、実際は都市それぞれにバラバラな音楽の歴史があるんですね。それを今デイヴ・グロールがまとめているわけだ。アメリカのロックのアイデンティティを改めて掘り返している。
大谷 そう。それぞれの都市の音楽シーンの物語を描くと、アメリカの音楽の本質を浮かび上がらせることができる。
これは大発見ですよ。つまり、ロックバンドはこのやり方ができるんです。現場に行って取材して、そこにある物語を訊くんですよ。で、それを歌にしちゃう。
柴 なるほど。彼らはそれを映像込みで作ったわけだ。
大谷 だからおもしろいんです。何より、それによってフー・ファイターズがバンドを続ける理由が生まれてるわけなんですよね。つまり「俺は彼らのバトンを受け継ぐんだ」という宣言になっているわけですよ。
柴 格好いいなあ。
大谷 これは2014年の最後に届いた、今のアメリカのロックのあり方の象徴的な作品じゃないかなって思いましたね。しかもこのドキュメンタリー番組が、彼らのファンだけじゃなくてアメリカの一般層にも受け入れられている。
柴 なるほど。アメリカのロックって、もう若者向けのポップスというより、歴史の積み重ねのあるジャンルになってきているわけですよね。ジャズとかカントリーと同じような。
大谷 そうです。受け入れがたいことだと思うけど、それをフー・ファイターズは受け入れたわけですよ。その役割を選んだ。そう考えるとグッとくるんですよね。
柴 じゃあ次、僕はこの流れでU2の話をしたいですね。
柴那典 PLAY→U2「The Miracle (Of Joey Ramone)」
大谷 いいね! U2問題だ(笑)。
柴 そうそう(笑)。彼らは新作アルバム『Songs of innocence』をiTunesを通して無料でばら撒いた。だから、聴いた人はたくさんいるはずですよね。しかも「勝手にダウンロードされてしまう」というクレームが相次いで、フロントマンのボノが謝罪したりもした。相当波紋を呼んだわけなんですけれど。
ただ、アルバムを何の気なしに聴いた人は、肝心のアルバムのストーリーを知らないと思うんですよ。
大谷 これはどういう物語になってるんですか?
柴 このアルバムって、ボノの生い立ちの話なんですよ。彼は14歳の時にお母さんを亡くしてるんだけれど、その母親について歌った曲も入っている。10代の時に住んでたアイルランドの街のことを歌った曲も入ってる。
で、その1曲目が「The Miracle (Of Joey Ramone)」という曲。「俺はラモーンズに会って俺は音楽を始めた」っていう曲なんです。つまりボノは、Appleの力を借りて自分語りを5億人のiPhoneにぶちこんだわけですよ。
大谷 ははは!
柴 めちゃめちゃ強引なやり方で個人的な物語を伝えているアルバムなんです。そういう裏側まで踏まえて聴くと、あのアルバムは最高なんですよね。
大谷 それで思い出したんですけど、実はGLAYのニューアルバムにもジョーイ・ラモーンが出てくるんですよ。
大谷ノブ彦 PLAY→GLAY「百花繚乱」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。