分業制でも、魂のこもったおもしろいマンガはつくれる —マンガ家・うめ(小沢高広)vol.3

二人組のマンガ家「うめ」の企画・原作・演出を担当する小沢高広さんのご自宅兼作業場で、本棚を見せていただきながら話をうかがうインタビューシリーズ。前回のコンピュータづくしの話から一転、今回はおすすめの本・マンガがたくさん登場します。人生で最初に読んだマンガ、夫婦ともに好きなマンガ、これからの出版業界の未来を見通すSFマンガ、そして、マンガのこれからのつくりかたを学んだ異色のアメコミまで、たっぷりご紹介。

物語に整合性がつく瞬間が気持ちいい

— では、ここからは影響を受けた本やおすすめの本についてうかがっていきます。

うめ・小沢高広(以下、小沢) 『キルラキル 脚本全集』は、最近読んで一番おもしろかった本です。「キルラキル」というアニメの脚本と、脚本家である中島かずきさんご本人による解説が載っています。これはアニメ本編を観ていて、ものをつくる仕事をしている人はみんな読んだほうがいい、傑作ですよ。どのシーンを伸ばして落として、どういうふうに作品を完成させていったのかという裏話がすごく味わい深いです。僕はエンタメ自体も好きなんですけど、エンタメの裏側がすごく好きなんです。だからこの本は大好物でしたね。

— “うめ”のマンガも、『東京トイボックス』『大東京トイボックス』(以下、トイボ)だったらデータベース、『南国トムソーヤ』だったら観光ガイドと、細かな設定が各話の間に載っていますよね。

小沢 あれね、書いても書いても反響がなくって(笑)。

— そうなんですか? 自分も含めて、楽しみにしている人も多いと思います。

小沢 そう言ってもらえるとうれしいです。僕、物語の矛盾に整合性がつく瞬間が好きなんですよね。その集大成が、今のガンダムだと思っていて。だって、リアルな兵器だとか言っておきながら、白と青と黄色と赤ってひどいカラーリングじゃないですか(笑)。あれをみんながよってたかって、実際はもうちょっと違う色だったんじゃないかとか、関節部分の装甲はこうなってるんだとか、整合性をつけていったから、30年以上もつコンテンツになったんですよね。

— 最初はつくり手もそこまで考えていなかったと。

小沢 そう、おもちゃつくるときに派手な方が子供受けする、とか、そういう理由で決めていたと思うんです(笑)。でも、みんなでいろいろ考察して、整合性がつくと気持ちがいいんですよね。そういうのが大好きで。

— それを自分のマンガでもやってらっしゃる。

小沢 そうなんです(笑)。そうそう、『ファイブスター物語』って最初に詳細な年表がついてるじゃないですか。作品に出てこないところまで。あれもすごく好きで、何度も年表をたどりながら読んでいました。10代のころ、すっごくハマりましたね。

— ご自分の作品で年表はつくられるんですか?

小沢 あ、トイボの年表はつくっていました。かつて、ニフティで年表をつくるサービスがあったんですよね。それを使って、横軸を時間軸、縦軸をスタジオG3(トイボに出てくる架空のゲーム制作会社)の社員の数にして、年表を細かくつくっていた時期がありました。

— 誰に見せるわけでもなく(笑)。

小沢 そう、公開しないのに(笑)。もう、サービスが終了してしまって、そのデータは失われてしまったんですよね。とっておけばよかったな。

SFにすることで、普遍的なストーリーを描ける

— マンガは小さい頃から好きだったんですか?

小沢 僕、3歳くらいのときに初めて読んだマンガが楳図かずお先生の『イアラ』だったんです。それがすんげー怖くて、もう二度とマンガなんて読むもんか! と思いました。

— 最初がそれって、すごいですね(笑)。

小沢 そのあと、『ドラえもん』に出会って、「マンガって怖いものじゃなかったんだ!」と考えを改めて、そこからマンガ好きになりました。でも前回、高校生くらいでゲームやコンピュータから離れたという話をしたんですが、その時期マンガからも離れてしまったんですよね。それでまたマンガに戻ってくるきっかけになったのが、岡崎京子さんのマンガでした。

小沢 最初に読んだのは『PINK』だったかな。『リバーズ・エッジ』は、めずらしく妹尾(妹尾朝子・作画担当)と僕の両方が好きで。岡崎さんのマンガの大半は、離婚したときのために2冊買っています(笑)。

— そんな(笑) 「めずらしく」ということは、お二人は好きなマンガのタイプが違うんですか?

小沢 妹尾のほうが王道の大作でカッコいいマンガが好きですね。『あしたのジョー』とか『ガラスの仮面』とかを、よっしゃー! って感じで読むのが好きみたいです。一方僕は、おしゃれ系、サブカル系のマンガが好き。だから『IKKI』が廃刊になって悲しかったです。自分たちで書いているマンガはちょっと違う方向性なんですけどね。

— お二人の好みがかけあわさって、“うめ”のマンガになっているのかもしれませんね。

小沢 こちらもあこがれるマンガです。とり・みきさんと田北鑑生さんの『ダイホンヤ』と『ラスト・ブックマン』。

小沢 これは、書店もの、出版業界もののはしりにして最高峰だと思います。あらすじに「20XX年、コンピュータネットワークの発達と森林資源の不足によって、紙の本は激減していた。弱体化した書店を保護するはずの『書店法』だが、巨大書店の独占を許し……」とあるんですよ。おもしろいでしょ。

— これって、すでに起こりつつあることなのでは……。

小沢 まさにそうなんです。この本が出たのは2002年。この時期にここまで見通せていた人は、とりさんと田北さんくらいだったんじゃないでしょうか。この世界のなかでは、紙の本は高級品になっていて、インテリアとして扱われていたり、バーで楽しむものだったりするんです。紙の本が今後どうなっていくかわかりませんが、これはひとつの可能性ですよね。

— おもしろいですね。

小沢 これは今こそアニメ化してほしいですね。SF設定にしてあることで、今でも十分楽しめる普遍性が保たれてるんです。

— むしろ、もう少し経ったら、ここに書かれていることが現実化してしまうかもしれませんね。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
プロフェッショナルの本棚

ホンシェルジュ

本棚は人を表す、といいます。本連載は、さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人のもつ本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていこうという試み。本がいまの自分をつくったという人から、ほとんど本を読まない人の本...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません