ポケコン、ベーマガ、NEC8801。コンピュータにハマった少年時代
—— ここからは、人生で影響を受けた本についておうかがいしていきます。
うめ・小沢高広(以下、小沢) なんといっても、大きな影響を受けたのはこれですね。『こんにちはマイコン』。
—— これは…!! 『ゲームセンターあらし』の作者、すがやみつる先生が描いたプログラミングの学習マンガですね。30代、40代くらいのコンピュータに詳しい方からこの本の名前を聞くことがよくあります。
小沢 いやあ、この本ものすごく売れたんですよね。今のゲーム業界やIT業界には『こんにちはマイコン』を読んで、この道に転んだ人は多いと思いますよ。IT業界に与えた影響力の大きさからいったら、サッカー界における『キャプテン翼』くらいの存在だと思います。日本はただでさえシリコンバレーと引き離されてますけど、これがなかったらあと20年は遅れていたんじゃないでしょうか。
—— それは偉大な一冊ですね。
小沢 僕もこれを読んでいなかったら、『東京トイボックス』『大東京トイボックス』(以下、トイボ)も『スティーブズ』も描いてないと思います。『こんにちはマイコン』を読んで初めて、ゲームはつくれるものだってわかったんです。そう考えたら、世の中にあるものは、建物だって、鉄道だって、すべて誰かがつくったものなんですよね。世界は手作りできるんだ、ということを教えてくれたのがこの本です。
—— このはさまってるシートはなんですか?
小沢 マイコンを持ってない人がタイピングを練習するための紙ですね。叩けば叩くほど虚しくなるという(笑)。これを読んだときは小学4年くらいだったんですが、とにかくプログラマになりたいと思っていました。それで、小学5年でポケコンを買って。
—— ポケコンってなんですか?
小沢 ポケットコンピュータといって、今のiPhone6 Plusくらいの大きさのコンピュータがあったんですよ。えーと、まだ家のどこかにあったはず……。あ、ありました。
小沢 関数電卓に毛の生えたような見た目ではあるんですけど、ちゃんとBASICでプログラミングできて動くんです。これの上でキャラクターつくってゲームまでつくった人もいるんですよ。
—— えっ! そんなことまでできるんですか。
小沢 小学生の頃は、これでずーっとプログラミングしてましたね。『マイコンBASICマガジン』、略してベーマガを毎号買っていました。それに数ページだけ載ってるポケコン用のプログラムが見たくて。
—— ベーマガは、BASICのプログラムが載ってる雑誌なんですね。
小沢 そうです。当時のBASICは機種ごとに方言がいろいろあって、命令の基本は一緒なんですけど、仕様が細かく違っていました。だから、機種ごとに違うプログラムが載ってて、みんなそれを自分のコンピュータに打ち込んでは、ちょっとずついじってプログラムを覚えていったんです。そのあと、中学生になってから、自分のパソコンを買ってもらいました。
—— 何を買われたんですか?
小沢 NECの8801mkⅡFRってやつですね。SRという名機があって、そのあとに普及機で出た少し安いバージョンです。なんか、パソコン話になってきちゃったけど、続けていいですか?(笑)じつは最近、これを手に入れたんですよ。
—— これは! かのスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックがつくった、世界初の完成品のホームコンピュータ、AppleⅡ!
小沢 後継機種のAppleⅡeですね。
—— どうやって手に入れたんですか?
小沢 オークションで落としたんです。起動するかどうかわからない、と書かれていたんですけど、ちゃんと動きました。それはやっぱり、ウォズの設計がいいんですよね。ものすごくシンプルにつくられているから、時間が経っても多少のことじゃ壊れないんです。もともとアメリカで使われていたみたいで、元の持ち主のメモが書いてあるんですよ。
—— これは貴重な品ですね。
小沢 やっぱり虹色のAppleマーク、いいですよね。でもじつは僕、初期のAppleってあまり詳しくなかったんです。高校生になったら、コンピュータもゲームもいじらなくなってしまって、他の遊びをするようになった。Macintoshが出てるな、なんていうのも横目で見ていたんですが、さわってはいなかった。コンピュータの世界に戻ってくるのは、大学をやめてデザイン事務所でバイトを始めてからです。当時はDTPが始まりかけのころで、QuarkXpressが2.5だったかな。いまはInDesignに取って代わられちゃいましたけどね。あと、Illustratorもまだバージョン2、Photoshopも2か3という時代で。その事務所でMacintoshをさわっていたら、楽しくなって戻ってきました。
—— そのときは、プログラムというよりデザインに興味があったのでしょうか。
小沢 そうですね。ただ、プログラミングの基礎だけでもわかっていると、コンピュータのものの考え方がなんとなくわかるので、アプリの習得が速いんですよ。それも、楽しかった要因の一つだと思います。
若い人たちが、ほとんどマンガを読まないという現状
—— ここまでずっとコンピュータの話を聞いてきたのですが、そもそもは影響を受けた本についてのお話でした(笑)。本はお好きだったのでしょうか。
小沢 そうでしたね(笑)。はい、本はずっと好きで読んでいました。でも、通勤をしなくなったら、読書の機会が極端に減ってしまったんです。もう、本を読むために通勤用に事務所借りようかな、と思うくらい。マンガを描きはじめたらさらに忙しくなっちゃって、子どもが生まれたらますます読む時間がなくなりました。でもここで電子書籍が登場して、読めるようになったんです。
—— といいますと?
小沢 これあまり言っている人見かけないんですけど、電子書籍のメリットのひとつって暗い場所でも読めることなんですよ。電子書籍のおかげで、子どもを寝かしつけながら本が読めるようになったんです。
—— なるほど。
小沢 おかげで、一気に読める冊数が増えました。枕元にデバイスを置いておいて、片手でとんとんしながら、子どもが眠るまでずーっと本を読む。眠ってからも、動いた瞬間に起きちゃうことがあるので、いっしょに寝ちゃって、2時、3時に起きてまた読書。「やっと読む時間が見つかった!」と思いました。
—— 何を使って読まれているんですか?
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