食文化はインターネットで進化した?—佐々木俊尚(ITジャーナリスト)vol.1

「肉食」が空前の盛り上がりを見せています。外食では大きなかたまり肉のローストを焼いて供する専門店など「焼肉」以外の選択肢も増え、家庭でもさまざまな肉料理が楽しまれるようになりました。家での肉の最高においしい食べ方を追求した肉マニア本『大人の肉ドリル』が好評の松浦達也さんが、気になる「食」の人、「肉」の人に会いに行く新連載。第1回のゲストは、ITジャーナリストでありながら、2014年に『家めしこそ、最高のごちそうである。』『いつもの献立がごちそうになる! 新・家めしスタイル』という2冊の"レシピ本"も刊行、ヒット作となっている、佐々木俊尚さんです。

最先端の外食が一瞬で地方の食卓に届く時代に

松浦達也(以下、松浦) 今年、佐々木さんが『家めしこそ、最高のごちそうである。』を上梓されたときには、本当に驚きました。一体どうされたのかと(笑)。

佐々木俊尚(以下、佐々木) 書き上げたときには、僕も驚きましたよ。最初は戦後の家庭料理史をテーマにした本を書こうと思っていたのに、いつの間にかレシピを中心とした仕立ての本になっていた。うまいこと編集者に乗せられました。

松浦 あ、マガジンハウスの美人編集者、Hさんですね! 奥様(イラストレーターの松尾たいこさん)とトークイベントでご一緒した時にご紹介いただきました。その『家めしこそ~』は前半が佐々木さんの食体験をベースに昭和の食が語られ、後半は佐々木家の食卓がかんたんなレシピつきで載録されていますよね。

佐々木 最初はその「前半」の本を作ろうというお話だったんです。2013年の夏に北海道大学のシンポジウムで「戦後メディアのなかで料理がどう扱われてきたか」という話をしたら面白がってくれて「あの話、面白いから本にしましょう!」と。ところが途中で「せっかくだから、後半にレシピを少し入れましょう」という話になり、気づけばレシピがずいぶんと幅をきかせていた(笑)。

松浦 できる方ですねえ(笑)。

佐々木 僕自身は前半のほうに書いた「1985年の映画『タンポポ』ではフランス語のメニューしかないフレンチレストランが描かれているが、日本語のメニューがない店は本当に存在したのか?」なんていう話のほうが好きなんですけどね。

松浦 当時、実際に外国語表記だったんですか?

佐々木 まさか(笑)。外国語と日本語の併記が主流だったみたいです。なかなか裏が取れなくて、Facebookで当時の外食事情に詳しい方に教えていただいたんですが。

松浦 食文化は、時系列で伝播していく様子を追っていくと面白いですよね。いつの時代も都市部の外食が先鞭をつけて、都市部の家庭と郊外の外食へと伝播する。そうしてだんだんと広がっていって最後に地方の家庭へと入っていく。昔は情報インフラが整備されていなかったから、都市部の外食で流行ったものが地方の家庭の台所に入るまで数十年かかっていた。それがいまでは東京の最先端の外食が一瞬で地方の家庭に届いてしまう。

スマホで検索すれば、未知の食材もおいしく食べられる

佐々木 「クックパッド」なんかは象徴的ですよね。ずいぶん前に社長の佐野陽光さんと話したときにもう「核家族化などで失われゆく家庭料理の伝承役を担いたい」とおっしゃっていた。確かにクックパッドのようなサイトに、"伝える"力はあると思う。どちらかというと、古きよき料理よりも、新しい家庭料理のトレンドを伝えるのに向いている気はしますが。

松浦 ユーザー投稿型のメディアだと、どうしても流行に引っ張られますからね。そういえば、いま発売中の『dancyu』で「今年おいしかったお店」を聞く企画で取材にご協力いただいた堀江貴文さんも「近年、お店でも他店の料理をパクるスピードが劇的に上がってる」とおっしゃってました。

佐々木 堀江さんがプロデュースしたグルメアプリ「TERIYAKI」もその一助を担ってるだろうし、「食べログ」あたりだと誰でも投稿できちゃうから、隠れた名店がどんどんなくなっていくのは寂しくもありますよね。でも情報が流出するのは悪いことばかりじゃない。少なくとも情報は流通させなければ意味がありません。

松浦 と言うと?

佐々木 例えば、地方で知らない食材に出会ったときも、スマホひとつでどんなふうに食べればいいかすぐわかる。

松浦 毒キノコを鍋に入れずに済みますし。

佐々木 いやまあ、入れちゃったことはないけど(笑)。もう少し身近な話でも、この間軽井沢のスーパーで地元産のコーナーを見ていたら、緑色の植物の実のようなものが置いてあって、前に「ぽっぽ」とだけ書いてある。

松浦 ぽっぽ……? 鳩っぽいですね。

佐々木 ネットで検索してみたら、「長野県などで作られている果物の通称です」とか「皮をむいて食べる」「味はカスタードクリームやバナナ、洋なしなどにも似ている」と書いてあったから、安心して皮をむいて食べたら本当にカスタードクリームみたいな味がしておいしかった。

旅先での楽しみ、「地元のスーパー」

松浦 地方には東京にまったく流通していない、本当に地元だけで消費されている産品がありますよね。メチャクチャうまいか、口に合わないかのどちらかというパターンが多い気はしますけど。

佐々木 いままでそうした情報に触れることができるのって、タレントが「ぶら~り」したり、田舎に泊まったりする旅行番組くらいでしたけど、最近はスーパーの地産コーナーや道の駅のように、足さえ運べば実際に手に取ることができる場所も増えました。

松浦 地方のスーパーって地域の暮らしぶりがサンプリングできる貴重な場所ですよね。僕も地方に行くと必ず地元の人が行くふつうのスーパーには立ち寄るようにしています。

佐々木 地方のスーパーは、楽しいよねえ……。

松浦 ですよね! 北海道の漁港にあるスーパーだと鮭が一尾とか半身で売っているし、沖縄のマックスバリュだとサーターアンダーギーミックス粉が売っていたりする。三重県の伊勢市では東京ではまだなかなか見ない伊勢うどんの麺が何種類も置いてありました。

佐々木 僕は現地で料理するのが好きなんですよ。まだ国内だとそんなに多くありませんが、海外のリゾート地だと"AirBnB"という現地の人から家を借りるサービスがあるんです。そのサービスで家を借りると、もちろんキッチンもついているから、料理し放題。先日もバリ島に行って、現地のスーパーであやしげな食材をあれこれ買い込んで、楽しく料理してきました。

松浦 僕も宮古島に行ったときなんかは、そういう過ごし方をしたりしますね。

佐々木 地元の食材を買って料理をすると理解度が深まりますよね。その国の暮らし向きが立体的に見えてくるというか。そういえば、最近九州の人と仲良くなって、時々ジビエを送ってもらえるように……。

松浦 あっ! そういえば実はこの企画、僕が『大人の肉ドリル』新刊を出したのが出発点で、何か肉の入ったお料理を一緒に食べようという仕立てで、実は今日は図々しくも作っていただこうかと……。ジビエの話はまたあとでいいですか?

佐々木 はいはい。伺ってますよ。本当にやるんだ?(笑) じゃあキッチンへ移動しましょう。

【ゲストプロフィール】
佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科中退。毎日新聞社などを経てフリーに。フリージャーナリストとしてIT、メディア分野を中心に執筆活動を行う。多忙な毎日のなか、自宅での食事はすべて自分で手作りをする。妻はイラストレーターの松尾たいこ。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)など社会構造やIT、メディア論を中心に著書多数。2014年には『簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。』『いつもの献立がごちそうになる! 新・家めしスタイル』など料理・食ジャンルの著書の執筆も。

Twitter:@sasakitoshinao

撮影:小川朋央


【松浦達也さんの本】

肉好きによる肉好きのためのおうち肉食バイブル! 垂涎の「肉マニア本」、好評発売中です。

大人の肉ドリル
大人の肉ドリル

【佐々木俊尚さんの本】

家での食事はかならず自炊している佐々木さんが、「ふだんのご飯をレベルアップする極意」を伝えます。

いつもの献立がごちそうになる! 新・家めしスタイル
いつもの献立がごちそうになる! 新・家めしスタイル

高級なレストランで食べるより家で作るご飯がおいしい! 佐々木俊尚さんによる「家めしのススメ」。

簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。
簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。

この連載について

たまごはん/にくごはん

松浦達也

人は肉によってのみ生きるものではない。もちろん卵によってのみ生きるものでもない。誰かと交わす、ひとつひとつの言葉によって生かされるのだ――。と誰が言ったか言わないか。食べるも口ならしゃべるも口。酸いも甘いも卵も肉も噛...もっと読む

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コメント

SasakiTakahiro 最先端の外食が一瞬で地方の食卓に届く時代に。 4年以上前 replyretweetfavorite

hirarisa_ 私もおじゃましてきましたが、超しあわせになった取材でした。第2回では肉ごはんも登場、さらにしあわせ度が上がります。 |肉食巡礼|松浦達也 https://t.co/I7NNK1RYLV 4年以上前 replyretweetfavorite

babakikaku_m お話を伺うだけでなく、ご自宅にお邪魔して手料理まで振る舞ってもらおうという『突撃! 隣の晩ごはん』的な企画を佐々木 俊尚さんにお願いしたら快くお引き受けいただいた件。|cakesにて対談連載「肉食巡礼」スタートしました。https://t.co/HewtiaYylv 4年以上前 replyretweetfavorite