「だから」から話を始めてはいけない理由
牧村朝子(以下、牧村) 私は、誤解を生みやすい「性のありかた」について発信する立場として、つねに言葉の使い方には慎重でありたいと思っているんだけど、みきさんも、言葉についてかなり考えている人よね。だからいっしょに本を作っていてかなり助かったの。そうなったきっかけとか、何かあるの?
小池みき(以下、小池) 要因として大きかったのは、やっぱり両親が二人ともライターだったことかな。文章を読み書きするのも、それについて考えるのも当たり前の環境だったから。特に父の方が、言葉の使い方に厳しかったんだよ。「タブーの言葉」っていうのが結構あって。
牧村 例えば?
小池 「だからぁ」って言っちゃいけない、とか。
牧村 どういうこと?
小池 一度言ったことを聞き返されたときの「だから」ね。「お父さん、今日~~だったよ」「え、どういうこと?」「だーからー、今日~~したの!」みたいな使い方するじゃない?
牧村 ああ。
小池 5、6歳の頃にそう言ったら、父に「下品な言葉を使うな!」って本気で怒鳴られた。その後母に、「その言葉は、『相手の理解不足』を前提としているから考え方として駄目なんだ」ってことを説明されて……そういうことが多い家だったよ。
牧村 ある意味ライターとしての英才教育ね。言ったことや書いたものにガチ赤入れが入る生活。
小池 良く言えばね。言葉には書かれていない意味の方にフォーカスしてしまうのが人間だし、そこを無視してものを言ったり書いたりしちゃ駄目だ、ってことは暗に教えられていた気がする。
牧村 『百合のリアル』でも、私の言葉の裏の裏まで読もうとしていたわけだものね。
小池 そうか(笑)。ただまあ、別にこれが優れた能力だとか、よく考えている証だとは思わないよ。そういう環境が辛かった時期もあるし、変なことにばっかりこだわってちゃ社会的にはどうやったって落ちこぼれるし。
牧村 霊感がある人の生きづらさと似ているかもしれないわね。多くの人が「何もない」と思うところでそうは思えなくて辛い、みたいな。
小池 ある意味でそうかもしれない。もしかしたら妄想かもしれない、ってとこまで含めてね。でもそのまま大人になってしまった以上、これを武器にして生きのびるしかないよね。父はそれがうまくいかなくて死んだけど、自分が正確だと思う言葉が相手にそのまま届くことなんてない、でもそれを相手のせいにしちゃいけない、っていう教え自体は私の財産だと思う。それがあったから、まきむぅと一緒に本が作れたんじゃないかな。
マキムー・アントワネットが気づいたこと。
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