石井裕也「自信があることなら、いつだって責任は取れる」

20代の頃から日本を代表する若手監督として活躍してきた石井裕也監督。現在も、戦前にカナダのバンクーバーに実在した日本人野球チームを題材にした、話題の映画『バンクーバーの朝日』の公開が控えています。若くして大作を手がけること、そして映画監督として大勢をまとめあげることに対してプレッシャーや不安はないのか、お伺いしました。

石井裕也がいま輝いている3つの理由

31歳で監督キャリアは10年以上!
18歳の頃から明確に「将来は映画監督になる」と決めて制作に邁進したため、現在は31歳ながら監督歴はすでに10年以上!

エンタメに終わらないエンタメ映画
デビュー以来、楽しめる作品でありながら「考えさせられる」作品を世に送り出してきました。「観客の想像力に委ねられる映画」と語る作品作りに、多くの人々が惹きつけられています。

名誉ある映画賞を続々と受賞!
2009年撮影の『川の底からこんにちは』で史上最年少でブルーリボン賞を受賞。2013年『舟を編む』で日本アカデミー最優秀作品賞を受賞! 海外での評価も高く、第1回エドワード・ヤン記念アジア新人監督大賞を受賞。

「これだ!」と自信を持てるまで努力すれば、不安はなくなる

— 『舟を編む』や今回公開される『バンクーバーの朝日』など、大作を手がけられることがここ数年増えていると思うのですが、大役を任せられることに不安やプレッシャーは感じませんか?

石井裕也(以下、石井) 現場の責任はたしかに自分にありますけど、別にそのことについてのプレッシャーは感じません。

— それは自分に自信があるからですか?

石井 そうですね。自信があれば、責任は取れます。でも、それにはもちろん裏付けが必要なんです。毎日映画のことを考えているし、少しでもよくなるように努力をし続けます。

— 具体的には、どんなことをしているんですか。

石井 シンプルですよ。たとえば、ひとつの作品を作るのに、僕が原作も読み込まず、題材についてなにも考えず、撮影プランすら考えずに現場にいたら、やっぱり自信が持てないから責任はとれない。
 でも、とことんまで自分のなかでその作品について突き詰めていれば、誰かになにかツッコまれたとしても、ちゃんと説明ができるんです。つまり、誰よりも自分が作品のことを考えている、という自負が自信になるわけです。

— じゃあ、たとえば俳優さんに演技について「こっちのほうがいいんじゃないか」とか言われても……。

石井 仮に議論になった場合は、お互いの意見はもちろん言い合います。でも、自分の案のほうがいいと思ったら「僕のやり方でやってください」って言える。 なぜなら、自分が一番考えているという自信があるから、そう言い切れるし、作品に対しても責任がとれるんです。もちろん、俳優さんやスタッフに提案してもらって、よりいいアイデアを活かしていくからこそ、映画作りは楽しいんですけどね。

— 石井監督は昔から自信はあるタイプなんですか?

石井 自信かぁ……。さっき言った自信とは別次元の、根拠のない自信というのも持っているかもしれません、10代ぐらいの頃から。でも、それがなかったら生きていけないと思うんですけどね。

— 自信がぐらつくことはないんですか?

石井 10代の頃とかに比べたら、若干失われていますよ(笑)。最近は、以前に比べて周囲が見えてくるようになってきましたから。

— それってちょっと大人になったっていうことですか?

石井 そうですね……、大人になったんでしょうね(笑)。

30代、よりシンプルに「映画を撮り続ける理由」

— 10代の頃と比べると、映画を撮り続けている理由は変わってきていますか?

石井 やはり30代になって、理由も少しずつ変わってきているんじゃないですかね。実際、「世界で評価されなきゃ」とか不純な動機や思惑がどんどん剥がれてきていますよね。いまは本当に純粋に「一人でも多くのお客さんに楽しんでもらいたい」と思うようになってます。

— よりシンプルになったんですね。

石井 そうですね。でも、昔の20代前半ぐらいの作品を観ると、それはそれでちょっとうらやましかったりもしますよね。未熟だからこそ、自由なんですね。

— ちなみに、作品で言うと……。

石井 この前、2007年に撮影した『ばけもの模様』を観直したんですが、おもしろかったです。あとは、長編と長編の撮影の合間に友達とかを集めて、やりたい放題の短編映画をちょこちょこ撮影しているんですけれども、そういうのも観直してみるとおもしろくて……。嫉妬します。

— そういう短編作は、どういうきっかけから作ることが多いんですか?

石井 リハビリ的な要素が強いですかね。長編映画を作るとやっぱりすごく疲弊するんです。特に若い頃は、あまり経験もないのにプロの人に囲まれて、大人数に指示を出さなきゃいけない。自主映画に比べると制約も多いですしね。
 長編作品の合間にそういうものから解放されて、好き勝手に作品を撮ることで、精神のバランスを保ってたんですよね。最近はリハビリの必要がないぐらいプロの現場を楽しめるようになりましたけど。

観客に「想像させる余地」を残した映画を作りたい

— ご自身のなかで、映画において絶対に譲れない信条のようなものありますか?

石井 僕はこれまでずっと「単純に楽しめるんだけど、それだけでは終わらない映画」が撮りたかったし、これからも目指していくと思います。これは別の言い方をするなら、「観客の想像力に委ねられる映画」のことなんです。

— といいますと?

石井 たとえば、感動的なシーンになったら音楽でやたら盛り上げてみたりとか、感情をそのまま登場人物に言わせてみるとか、ベタベタにわかりやすい映画を作ろうと思えば作れます。でも、それだけでは物足りない。観客がいろいろなことを想像できたり、感じたりできるからこそ楽しい、という作品こそエンターテインメントなんじゃないかと思っていて。
 人間描写にしても、「あぁ、いまこの登場人物は悲しいんだな」「この人はいま喜んでいるんだな」と、観た人が全員一致でひとつの言葉で語れてしまうような描写しかしない映画ばかりになってしまったら、すごく辛いな、と思います。

— 最近は、「考えさせる作品」というよりは、「わかりやすい作品」が増えているような気がします。それは作り手の方々の意識が変わっているんでしょうか?

石井 どうなんでしょうね。でも、観客に考える余地を作らないで、全部言葉にしてわかりやすくしてしまうのなら、作り手自身の想像力すら必要なくなってしまうんじゃないですか? 僕はそういうのはあまり好きじゃないんです。

— 簡単に言ってしまうと、「深み」がない作品になりますよね。

石井 たとえば、チャップリンの『街の灯』や『カッコーの巣の上で』のラストはひとつの言葉では説明できません。でも、あのラストにはちゃんと人間が描かれていて、なにかこう感じられるものがある。そういうものをおもしろいと感じることは絶対にあるはずだし、そういうものこそ僕は映画だと思っています。


さらなるインタビューが、dmenuの『IMAZINE』でつづいています。
20代のうちに描きたかった、「家族」への違和感
ぜひこちらからお楽しみください。

石井裕也(いしい・ゆうや)

1983年生まれ。映画監督。大阪芸術大学芸術学部の卒業制作として撮影した『剥き出しにっぽん』が第24回そつせい祭グランプリを受賞。また、2007年には第29回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞。その後、同作をはじめ『反逆次郎の恋』、『ガール・スパークス』、『ばけもの模様』などの作品を発表。2008年ロッテルダム国際映画祭で特集上映されるほか、アジア・フィルム・アワードでは第1回エドワード・ヤン記念アジア新人監督大賞を受賞。また、2009年『川の底からこんにちは』でブルーリボン賞監督賞を史上最年少で受賞。2013年公開の『舟を編む』では史上最年少となる30歳で、アカデミー賞外国語映画部門日本代表作品に選出。また、日本アカデミー賞最優秀作品賞や最優秀監督賞なども受賞。その後も、『ぼくたちの家族』や『バンクーバーの朝日』などの長編作品を手がけ、高い評価を得ている。

聞き手:中島洋一 構成:藤村はるな 撮影:加藤麻希


『バンクーバーの朝日』公開中!


(C)2014「バンクーバーの朝日」製作委員会

主演:妻夫木聡 監督:石井裕也 
戦前のカナダに実在した日系人野球チーム「バンクーバー朝日軍」。彼らの奇跡の実話を映画化!

ぼくたちの家族 特別版Blu-ray
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いま輝いているひと。

cakes編集部

あの人は、どうして輝いているのか。いま目が離せないあの人に、たっぷりお話を伺います。

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コメント

shokoku_junrei そつせい祭で見たときに、この人が今こうなるなんて予想もつかなかった。 4年以上前 replyretweetfavorite

k_sato_oo 映画において絶対に譲れない信条は、「観客の想像力に委ねられる映画」を撮るということかあ。 4年以上前 replyretweetfavorite