イラスト:長尾謙一郎
大谷ノブ彦(以下、大谷) これは今回言いたいと思ってたんですけど、俺、音楽を盛りたてる側の人で、“音楽愛”に逃げ込む人は嫌いなんですよ。2014年はそれを痛感した一年だった。
柴那典(以下、柴) 音楽愛に逃げ込むというと?
大谷 自分が初めてDJやった時に、お笑いの界隈とかに一番言われたのが「芸人のくせにDJなんてして」っていうことだったんです。それを言った人は、「芸人とはこうあるべき」だと思って言ってたんですよね。それが“芸人愛”。それと同じで、ミュージシャンとはこうあるべきだ、バンドマンとはこうあるべきだっていうのが“音楽愛”。「演奏してない? そんなの音楽じゃない」とかケチをつける。
柴 そうか。そういう愛は、対象を囲ってしまうんですね。
大谷 押し付けの愛なんですよ。だからいろいろ悩んだ結果、そうじゃなくて、僕は“熱”っていう選択肢をとった、“音楽熱”。なぜなら熱のほうが伝わるから。だからキュウソネコカミは大好きだし、ゴールデンボンバーはすごいと思うし、SEKAI NO OWARIがやろうとしていることもすごく理解できる。それを蔑ろにして、音楽愛に逃げ込むことはやめようと思ったんです。
柴 そうですよね。いろんな形の音楽があっていいし、純粋に音楽それだけでエンターテイメントになるというのも、もちろんそれはそれでいい。でも、そうじゃないものにケチをつけるのは違う、という。
大谷 そう。しかもそんな悪口、誰も聞いてないんですよ。だって音楽愛なんて、あって当たり前だから。音楽を聞いて楽しんでいる人は多かれ少なかれ音楽愛がありますよ。それはとてもベーシックなもの。「振り付けつけて踊ったり、ギミックを使ったら音楽愛がない」なんてそんなワケがない。
音楽だけじゃなくて、どんな分野でも一緒ですよ。憎むべきは“◯◯愛”を振りかざして違うやり方をする人を縛ろうとしてる人だと思う。
柴 そういう話の流れで、ちょうど僕も話したい曲があるんです。KEYTALKの「MONSTER DANCE」という曲。僕、この曲大好きなんですよ。
柴那典 PLAY→KEYTALK「MONSTER DANCE」
大谷 いやあ、わかるわ。この曲は久々にヒットだなあ。
柴 この曲の何が素晴らしいって、今のロックフェスで起こってる光景を、ギミックも多用してわかりやすく表現しているわけなんですよね。
今の時代にウケてるダンスロックとはみんなで集まって騒いで楽しむエンタテインメントである、というのを曲でも映像でも確信的にやっている。アイドルソングにありがちなPPPH(パン、パ、パン、ヒュー!)という振り付けも入ってる。
大谷 彼らはかなり前からアイドル音楽が好きで、そういう振り付けも意図的に取り入れてるんですよね。
柴 メロディも歌謡曲のテイストですしね。しかもサビでは「そいや! そいや!」って掛け声も入れてる。このビデオの感じ、まさにダイノジのDJで繰り広げられてる光景ですよね。
大谷 そう! 俺たちが9年前からDJでやってたことですから。アイディア料もらいたいくらい(笑)。
柴 で、これを観るとわかるんですよね。今のダンスロックの「ダンス」って、つまりは盆踊りだと思うんです。阿波踊りもパラパラもそうですけれど、日本人は胸から上、腕を使ってダンスを踊る傾向がある。
大谷 そうなんですよね。それを確信してずっとやってきたから。いやあ、バレちゃったな、俺がやってること。
柴 (笑)。フレデリックの「オドループ」という曲もいいんですよ。やっぱりこの曲も若いバンドのダンスロックなんですけれど、ビデオに出てくる女の子はだいたい上半身しか映ってない。
柴那典 PLAY→フレデリック「オドループ」
大谷 脚を見せてない。
柴 そうなんですよ。やっぱり、胸から上で踊ってるんですよね。
大谷 なるほどね。そこで、いくら音楽に詳しい人が「本当のダンスミュージックは腰で踊らないとダメだ」とか言っても、もうそういうことを共有する人が居なくなってるわけなんですよね。
柴 しかも、KEYTALKもフレデリックも「踊る」ということ自体について歌ってるというメタ的な視線がおもしろい。
大谷 そういう話で言うと、「夜の本気ダンス」っていう関西のバンドがおもしろいんですよ。まだ学生バンドなんですけど、ライブハウスとかフェスで注目を集め始めてる。