第78回】EUとロシアはいがみ合っている場合ではない!? ますます過熱するシリア難民問題の現状

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


難民が押し寄せるドイツ、コンテナを活用した収容所も設置されている 〔PHOTO〕gettyimages

20万人の難民に対する収容所が足りないドイツ

シリアとイラクの混乱で、今、ドイツに凄い数の難民が入ってきている。今年の1月から7月までだけでも9万7093人。去年の同時期と比べて62%増。12月までに、おそらく20万人に達するだろうと言われている。

現在入ってきている難民は、シリアやアフガニスタンなどから、命一つで逃れてきている人たちだ。アフリカから職を求めて不法に入国してきたボートピープルとは違って、審査後、すぐに送り返すことは不可能だ。だから、この20万人のうちの多くは、かなり長いあいだドイツに滞在することになると見られている。

難民の困窮は、誰の目にも明らかだ。気の毒だと皆が思っている。しかし、これだけ急に増えると、受け入れ側にも相当の負担がかかる。経済的な負担だけではなく、ロジスティックの難しさもある。

今、ドイツでは、どこもかしこも、難民を収容する施設を血眼で探し、あるいは、作っている。使われていない建物は、どんどん難民収容所に改装されていく。広い体育館のような場所に何百ものベッドが並べられる。工場のホールに、見渡す限りの2段ベッドが並んでいるところもある。あるいは、どこか町はずれの空き地に、延々とコンテナハウスや白いテントが連なっていたり・・・、それでも宿舎は恒常的に足りない。

しかも、難民の収容はベッドを並べれば済むというものではない。かなりの数のトイレやシャワーが必要だし、健康管理もなされなければならない。病人は医者に、子供は学校へ行かなくてはならない。もちろん、1日3度の食事も飲料水も要る。ゴミも大量に出る。

第2次世界大戦後と同じことが起きている

国民の反応はさまざまで、大筋ではもちろん難民支援に賛成だが、収容施設が自分の住まいの間近にできるとなると、突然、反対運動が巻き起こることも稀ではない。極右グループは外国人排斥に熱心なので、直接攻撃という犯罪行為に及ぶこともある。一般市民の中にも、これ以上難民が増えるのは不安だという声が多い。

その一方、自治体の「自宅の空部屋を貸してください」という呼びかけに呼応して、民宿のように部屋を提供する人もいる。ドイツでは第2次世界大戦の後、東欧やソ連の旧ドイツ領であった場所から追放された1200万人から1400万人もの難民が、着の身着のままで引き揚げてきた。

しかし、空襲でやられていたドイツでは、そうでなくても住宅は不足しており、自治体はやむなく、家の大きさと住んでいる人間の数に照らし合わせて、引き揚げてきた人たちを強制的に住民に振り分けた。だから、戦後のドイツでは、十分な住宅が建つまでの一時期、一つ屋根の下で、知らない人たちがぎゅうぎゅう詰めで暮らしていたのだ。そして今、それと同じことが、あちこちで起こっている。この国には、外国人を追い出そうとする人もいれば、みずから引き受けようという心の優しい人もいる。

難民問題の舞台裏は、90%が経費の問題だ。衣食住や語学研修などのコストもさることながら、医療費も争点。難民には健康状態に問題のある人が多いが、その医療費を誰が持つか。医療保険会社は、保険金を払っていない人の医療を負担する義務はない。つまり、すべてを自治体が負担しなくてはならない。

ノートライン・ヴェストファーレン州は、かつての炭鉱町を多く抱えており、労働者の割合が多い。つまり、ドイツの中では比較的貧しい州だが、人口はいちばん多いため、割り当てられる難民の数も最多で、今年だけで3万7000人を引き受けた。ドイツでいちばん大きい都市ベルリン(人口350万)が1万1500人。ベルリンも、どちらかというと、破産寸前の自治体だが、目下のところ48ヵ所の難民収容所を運営し、それでも足りず、500人がホテル住まいだそうだ。

難民政策は州の管轄だ。実際に市町村が使った費用に対して、州政府が一定の割合を負担する場合もあれば、一人当たりの定額を支払う場合もある。私の住むバーデン・ヴュルテンベルク州では難民一人あたりの年間費用として1万2,270ユーロが計上されているが、ヘッセン州では、4,800から6,000ユーロ。各州により、かなりの差がある。

ただ、それでも、難民にかかる経費が天井知らずであることに変わりはない。市町村はどこも火の車なので州に泣きつき、州もほとんどが借金経営なので国に援助を求める。国もお金はないが、しかし、泣きつくところがないので、どうにかしなければならない。

というわけで、このたび、2014年、15年分として、国庫から州に対する10億ユーロの援助が決まった。この10億ユーロは、税収と人口の割合によって、各州に分割されることになる。州はその半額を、一応、20年以内に返済しなければならないということになっているが、難民はこれからもまだまだ増えるだろうから、最終的に、援助は恒久的なものになるのではないか。

9月末、トルコのエルドアン大統領はニューヨークの国連総会で、自国の難民関係の出費が35億ドルに上っていることを訴え、援助を求めた。トルコはすでに150万人のシリア難民を保護しているという。写真を見ると、国境の無人地帯に、見渡す限りテントが張られている。トルコはシリアと延々と国境を接しているので、毎日、続々と難民が舞い込んでくる。これだけの数の人間に、屋根と食料を提供し、最低限の衛生状態を確保するだけでも、大変なことだ。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

現代ビジネス

この連載について

初回を読む
シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません