「街コンって、どう思った?」
僕はふたりの共通の体験を話題にすることにした。共通の体験がある人に対して、人は安心感を抱くのだ。
「そうね。わたしははじめて参加したんだけど、意外と面白かったな。たくさんの人と話せて。合コンよりはいいかも」
「どうして合コンよりいいと思ったの?」
「だって、合コンは、ずっと同じ人たちと2時間もしゃべらないといけないでしょ」
「そうだよね」
僕はあまり合コンに行ったことがなかったけど、とりあえず同調しておいた。
「でも、街コンは、いろんな人と話せるからね」
「そうだよね」
「あっ、このスペアリブ美味しいね」
「美味しいでしょ」
「うん、とても気に入った。わたなべ君は、いいレストランを知ってるんだね」
僕はつい、このレストランをどうして知ったのか、いままでの経緯を全部話しそうになった。永沢さんに教えてもらって、すでに先日の日曜日に使ったと言う代わりに、別のストーリーを紡ぎ上げた。かつての僕とは違う。
「永沢さんに連れてきてもらったんだ。この前、知的財産に関するリサーチプロジェクトが終わったときの打ち上げでね」
心なしか、由佳さんの目が少し輝いた気がした。
どうやら、上手く僕の仕事を紹介できたみたいだ。おそらく、事細かに仕事の詳細や年収について話すより、こうしたさり気ない説明のほうが、女の人には受けがいいのだろう。全てを話さないことで、女の人が勝手にいい方に想像してくれるのかもしれない。
「へ~、永沢さんと仲がいいんだね」
「うん、公私ともども、付きあわせてもらっているよ」
永沢さんという共通の知人を話題にして、僕たちはさらに絆を深めていった。
「永沢さんって、ファンドマネジャーだっけ?」
「そうだよ。彼はすごい人なんだよね」
「へ~。わたなべ君は弁理士なんだよね」
「うん」
僕は、弁理士資格を取ることがいかに難しいかの解説を控えることにして、その代わり仕事に前向きに取り組んでいることを伝えた。
「そうだね。いろんな発明に関われて、すごく面白いよ」
「そうなんだ。わたなべ君は仕事をがんばってるんだね」
僕たちは、永沢さんの話や、街コンについていろいろと話していた。ビールを何杯も飲んで、お腹もふくれてきた。すっかりふたりともいい気分になっていた。
「この辺りは水辺で、歩くと気持ちいいんだよ」
「そうだね。いい景色だよね」
「ちょっと、歩いてみる?」
「うん」
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