chapter3-3 フィフティ・フィフティ

僕は野生の王国の厳しさを学んだ。勝者がさらに勝っていく世界だ。そして、人間の世界もそれに勝るとも劣らない格差社会だった。僕は生き延びることができるのか。

「ところが、だ」と永沢さんは言って、僕を見た。「人間社会に比べれば、はるかに単純な世界で生きているグッピーでさえ、モテはルックスだけでは決まらないんだ」

「そうなんですか?」と僕は聞く。

「ドガトキンという生物学者がとても興味深い実験をした。ひとつの水槽を透明な仕切りでみっつに分割して、真ん中のメスに見えるように、両方のサイドに別々にオスを入れる」

「真ん中にグッピーのメスで、その両隣にグッピーのオスが1匹ずつですね」

「次に、片方のオスのところに別のメスを入れて交尾させる。水槽がみっつのスペースに区切られていて、それぞれにお互いが見えるから、片方のオスはひとりぼっちで、もう片方のオスはしょっちゅうメスと交尾しているのが真ん中のメスに見えるわけだ」

「水槽がみっつに分かれていて、一番左にはオス1匹、真ん中にはメスが1匹、一番右には別のオスとメスが入っていて交尾しているわけですね」

「次に、みっつに分けられた水槽の一番右で、交尾していたメスを取り除く。それから、隔離されていた左のオスと、真ん中のメスと、さっきまで交尾していたオスの3匹がいっしょに泳げるように仕切りを全て外す。そうすると、他のメスと交尾しているところを見せたオスは、真ん中でそれを見ていたメスに、交尾の相手として選ばれる確率が圧倒的に高いことがわかったんだ。ひとりぼっちだったオスは敬遠されてしまう」

「モテるやつはもっとモテて、非モテはもっと非モテになるんですか?」

「そいうことだ」

「きびしいな……、まるで人間社会と同じじゃないか」

「さらに続きがある。もともとヒレの大きさや、体の発色具合なんかで遺伝的な資質で優劣のあるオスでも比べる。人間の男でいえば、イケメンとブサメンみたいなもんだ。何の情報もなければ、グッピーのメスはイケメンのオスと交尾するんだが、ブサメンのオスが他のメスと交尾しているのを何回も見せられると、今度はブサメンのほうと交尾したがるんだよ」

「そうなんですか!」僕は驚いて言った。「グッピーでさえ、客観的なルックスよりも、他のメスにモテているオスのほうがモテるというわけなんですか?」

「グッピーだけじゃない。生物学者たちは、メダカでもモテるオスがモテるという現象を確認した。また、鳥類でも、キジやウズラなどで、オスは単にモテるからモテる、という現象が確認されている。これは人間の恋愛でも極めて重要な示唆を与えている。つまり、イケメンや金持ちより、単の他の女にモテている男がモテる、という恐ろしい事実だ。これが『モテスパイラル現象』と言われるものだ」

「モテているからモテる。なるほど。しかし、それじゃどんどん格差が広がる一方ですね」

「こうしたグッピーやメダカ、キジやウズラの研究は、女の前で俺たち男がどう振る舞えばいいか、というのをじつに明確に教えてくれているんだ。つまり、俺たちは女の前では、自分は女にモテモテで、セックスなんかいくらでもやりたいだけやれている、という顔をしてなきゃいけないってことなんだよ」

「じゃあ、あなたを愛している、僕にはあなたしかいないんだ、みたいな一途な想いや行動は、全て裏目に出るってことですか?」

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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Fujisawa_bot 恋愛工学が解き明かす愛の物語 約2年前 replyretweetfavorite

Ischurostoxo 『「女は、女ってだけで価値がある…若い女っていうだけで…色々な男からアプローチされてるはず…女のほうが圧倒的に恋愛経験が多く、そして彼女たちはあざとい…彼女たちを傷つけることなんてできない」ほんまそれ 約2年前 replyretweetfavorite

goph_ 創刊号から読んでいると、理論の目新しさはないけどいい復習になる。 約2年前 replyretweetfavorite

ikari_shinichi いよいよ核心に! 約2年前 replyretweetfavorite