chapter3-1 イエローグラスグッピー

トライアスロンが終わった。この1日の経験は、これまでの人生全ての経験より勝っていた。最後は泥酔してしまい、記憶が曖昧だが、どうやらひとりで家に帰ってきたようだ。

 目覚めると、北品川のワンルームマンションだった。僕の自宅だ。喉がひどく乾いている。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、一気にゴクゴクと飲んだ。そうだ、昨日は永沢さんと六本木のクラブに行って、テキーラを飲みまくっていたのだ。信じられないほどたくさんの女に声をかけ、これまでの人生で女から教えてもらった全ての連絡先の数を上回る連絡先を一日でゲットした、はずだ。あれは夢だったのか? 実際に、六本木のクラブでの記憶があまりない。どうやって僕の家まで辿り着いたのか、全く覚えていない。

 僕はベッドの脇に置いてあった携帯電話を見つけた。もし、あれが全て夢だったら、そこには女の連絡先が何も入っていないはずだ。LINEアプリを開くと、信じられない数の女の子たちのアイコンが表示された。何人かからは、メッセージが届いている。

 夢じゃなかった!

 時計を見るとすでに正午を過ぎていた。永沢さんからのメッセージも届いていた。[15時に来い]と一言だけ。次のメッセージには、ただ住所が書かれていた。六本木一丁目の泉ガーデンのマンションだった。僕は永沢さんにすぐに返事を書いた。昨日会った女たちへは書かなかった。何を書いたらいいか、永沢さんに聞いてからにしよう、と思ったからだ。

 ジーンズのポケットには、連絡先をゲットした女たちに関するノートが折りたたまれて入っていた。六本木のカフェで永沢さんと作ったやつだ。そのノートと携帯電話に入っている連絡先を照合した。ノートに書いていないが、携帯に入っている連絡先は、六本木のクラブでゲットしたものだと思われる。

紗季
マオ
斉藤美和
Anna
Elise

 この中の4人は、どうやって連絡先を聞き出したのか思い出せた。斉藤美和に関しては、ぼんやりとどんな感じの女だったかは覚えているものの、細かいことはほとんど思い出せない。

 何度かメッセージがやりとりされていた。

(AM1:15 わたなべ)[わたなべです。今度、飲みに行きましょう!]

(AM1:16 斉藤美和)[いこう!]

(AM1:17 斉藤美和)[<スタンプ>]

(AM2:01 わたなべ)[<スタンプ>]

(AM2:18 わたなべ)[どこにいるの?]

(AM2:26 斉藤美和)[もう外に出てタクシー拾うところだよ]

(AM2:26 わたなべ)[いっしょに帰りたかった]

(AM2:29 斉藤美和)[ありがとう。またね。Goodby!]

(AM2:29 斉藤美和)[<スタンプ>]

(AM2:30 わたなべ)[またねー。]

(AM2:30 わたなべ)[<スタンプ>]

 近所のラーメン屋で昼食をとりながら、昨日のナンパで連絡先をゲットした女の子たちについて状況をよく思い出しながらおさらいした。

 時計を見ると、午後2時を過ぎていた。

 永沢さんの家がある六本木一丁目まで行くには、そろそろ出発したほうがいいだろう。電車で行くのはかなり大回りなので、都営バスで白金台まで行って、そこから南北線で行くことにする。

 僕はラーメン屋を出て、バス停に向かった。

 永沢さんのマンションは泉ガーデンの近くにあった。とても高級そうなマンションだった。ただのサラリーマンだと思っていたら、永沢さんってけっこう金持ちなんだ。

 インターホンを鳴らすと、永沢さんと女の人の声が聞こえた。しばらくすると、玄関が開いて、そこにはテレビで見たことがある女の人が立っていた。昨日、クラブで永沢さんといっしょに帰ったモデルの石川真奈美だった。あのときは誰だがわからなかったが、間違いない。

「あら、わたなべ君。あんたたち本当に仲がいいのね」

「昨夜はどうも。また、お会いできて嬉しいです」

「心配しないで。私はもう行くわ」と真奈美が言った。「あんたたち男同士の話があるんでしょ?」

「そんなもんねえよ」と永沢さんが言った。それから僕の前でモデルの真奈美と軽くキスした。

「それじゃ、お暇するわ」

 永沢さんは彼女をエレベーターホールまで送ってから、また玄関に戻ってきた。

「作戦会議だ」

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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コメント

Fujisawa_bot 現代版の『種の起源』だ。だから、男は金と女の事だけを考えて、毎日のToDoリストをつ作れば万事OK“@cakes_news: |” 約2年前 replyretweetfavorite

shcb42 グッピーに人工ヒレをボンドでくっつけてめちゃモテにしてみたいなw ⇨ 約2年前 replyretweetfavorite

kuniken_817 『利己的な遺伝子』は必読とのこと。> 2年以上前 replyretweetfavorite

Ischurostoxo よし、滅びよう 2年以上前 replyretweetfavorite