第77回】ドイツの電力最大手E.ONが再エネ事業に乗り出す理由

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


〔PHOTO〕gettyimages

再生エネルギー事業でイメージアップを図るE.ON社

12月1日、衝撃のニュースが流れた。ドイツ最大の電力会社E.ON(エーオン)が、原子力、石炭、水力、ガス部門を切り離して、別会社を作るという。2社分割は、2年以内に完了する予定。

新生E.ON社は、再生エネルギー(再エネ)、送電網運営、顧客サービスの会社に変身し、本格的に再エネ事業に乗り出す。ここのところ、売り上げががた落ちになり、将来性の見えなかった同社だが、これによってイメージアップを図り、一気に展望が開ける予定だ。

一方、新しく設立される別会社の方は、原子力、石炭、水力、ガスの発電事業と、送電網運営、石油採掘・調査、原料輸入などを引き継ぐ。いわば、これまでのE.ONの中心事業であった部門だ。

本来なら、こちらがE.ONの名前を踏襲しても良さそうなものだが、もちろん、原発という消えゆく事業にE.ONの名を継がせるわけにはいかない。だから、この未来の別会社にはまだ名前がない。いずれにしても、E.ONが再エネの優良企業になるという期待が突然高まって、この日、同社の株価は急上昇した。

以上が第一報の大まかなあらすじだが、それに対するメディアと国民の反応は、かなり混乱している。

なぜ電力会社が儲からなくなってしまったのか

ドイツ人の目に映る電力会社というのは、"再エネへの転換に無駄な抵抗を続け、危険な原発や環境に悪い火力にしがみついてきた良からぬ人々の集まり"だ。しかし今回、その彼らがようやく目を覚まし、再エネに舵を切った。遅すぎたとはいえ、心を入れ替えたこと自体は、めでたい第一歩だとして、「一種の解放戦争」とか「記念すべき日」などと書いたメディアもあった。

一方で、不信感も噴出している。E.ONは会社分割という手段で、原発を切り捨てようとしている。原発の後片付けを押し付けられた別会社は、そのうち負担が大きくなって倒産するかもしれない。E.ONはどうでもいいかもしれないが、国としてはどうでもよくはない。原発の廃炉や核の廃棄物の問題があるので、救済しなければならなくなる。つまり、最終的には国民のお金だ。「さんざん儲けていたあいだは自分たちの利益で、儲からなくなると損失を国民に押し付けるのか!」といったような憤りだ。

問題の核心となっているのは原発の後始末。福島原発の事故のあとに急に早められた脱原発の期日は2022年。それから始まる原発施設の解体、除染、核廃棄物の最終処分などの費用は、各社がずっと積み立ててきた。E.ONの場合、原発7基の後始末代として、145億ユーロが貯まっているという。

ただ、それが足りるかどうかという話になると、ドイツ人は悲観的なので、メディアは「足りないかもしれない」と言い、国民は「絶対に足りない」と信じている。それもあって、今、まだできてもいない会社の倒産を巡って、議論が白熱している。

ただ、議論の中身は非常に偏っている。儲からなくなった電力会社が悪あがきをしていると責めるばかりで、なぜ電力会社が儲からなくなってしまったのかという肝心なところの説明が抜け落ちている。

答えはいたって簡単。高い買取り価格のせいで再エネが増えすぎたため、電気の過剰供給が起こっているからだ。今年の夏は、ドイツで余った電気が何度も捨て値で隣国に出た。卸市場での電気の値段は、2013年比で25%も下落。E.ONの原子力と火力による利益は、2020年には今の半分以下になると予想されている。

また、報道を読むかぎり、今回のE.ONの決定によって再エネ開発が加速し、原発や火力がきれいさっぱりなくなる日が近づいたと思わせるような書き方も多い。再エネだけでは安定的な電力供給は不可能だということが曖昧にされている。

しかし現実的には、火力がなくなることはない。原発がなくなった後も、火力はまだまだ稼働し続ける。今でも原発と火力は、再エネ電気が増えると出力を落とし、ゼロになるとフル稼働するということを繰り返している。そればかりか、一日のうちでも絶えず変化する再エネ電気の微調整の役まで引き受けている。つまり、こんなことをしているから、電力会社は儲からなくなったのだ。

困った電力会社は、全土で50基の発電所の停止を系統規制庁に申請しているが、それも認められない。儲からないのに撤退も縮小もできないのは気の毒だ。市場経済の原理に反している。企業の目的は慈善や社会奉仕ではなく、まずは利益の追求なのに、そういう当たり前のことが理解されず、電力会社はいつも悪者だ。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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the_kawagucci 脱原発.2022年.施設の解体.廃棄物の最終処分..E.ON.原発7基の後始末代として、145億ユーロが貯まっている..ただ、それが足りるかどうか.ドイツ人は悲観的.メディアは「足りないかもしれない」.国民は「絶対に足りない」 https://t.co/13J2hK1BPt 5年弱前 replyretweetfavorite