「つながり」を拒む、孤独遺伝子の発見。
「つながり」は健康に良いと聞いても、「オレは不健康でもいいから、一人でいた方が心地良い」と思う人もいるでしょう。
健康で長生きすることをどのくらい重要視するかはもちろん自由です。日本人全員が100歳まで生きることを目標にする必要はまったくありませんが、「つながり」を嫌う背景に遺伝子が関わっている可能性があります。
2000年、アメリカの心理学専門誌『サイコロジカル・サイエンス』に掲載されたカリフォルニア大学の心理学者シャーリー・マクガイア先生の論文では、同じ遺伝子を持つ双子を対象にした調査の結果、双子はそうでない子どもよりも似たような状況で等しく孤独を感じやすく、そこから孤独を好む遺伝子の存在が示唆されています。
孤独を好むというと寂しいだけの人間のようですが、実際は孤独になりたいという志向は人類の生存にとって極めて重要です。
人類全員が寂しやがり屋で一か所に集まって暮らしていたら、結核などの感染症の流行で全滅する危険があります。
投資家の間には「卵を同じカゴに入れるな」という有名な格言があるそうですが、孤独を好む人が適度にいて人類が分散してコミュニティが形成されているからこそ、これまで絶滅せずに生き残ってきたのでしょう。
孤独遺伝子には人類の可能性とチャンスを広げるメリットもあります。
勢力範囲を広げたり、未知の土地を開拓したりするためには、その先駆けとなって見知らぬ土地へ足を踏み入れる冒険者が不可欠です。
それこそは孤独遺伝子の持ち主であり、たった一人でふらっと旅に出るタイプがいたからこそ、アフリカで生まれた人類は地球上に広がったのです。ひょっとしたら孤独遺伝子の持ち主は「つながり」がないために長生きはできないかもしれませんが、人類という種の保存にはかけがえのない貢献をしていると言えます。
一方「つながり」遺伝子もある。
孤独遺伝子とは対照的に人と「つながり」やすい遺伝子もあります。これは前述のクリスタキス教授の研究です。ここでは、孤独遺伝子に対して仮に「つながり」遺伝子と呼びましょう。ヒトには23対、合計46本の染色体があり、染色体の中に遺伝子が詰まっています。そのうちの19番目の染色体にあるCYP2A6が「つながり」遺伝子であり、これを持つと他人に対してオープンな態度を取るため、いろいろな人と多様な「つながり」が作りやすくなります。
前述のように、人類には新しい局面を切り開いて一か所集中による全滅を避けるためにも孤独は必要ですが、一方で「つながり」があったからこそ逆境をはね除けて進化できたという側面もあります。
人間よりも力が強い動物はいっぱいいますし、人間よりも大きな動物、走るのが速い動物もたくさんいます。それでも人間が「万物の霊長」としての地位を勝ち得ることができたのは、個人戦ではなく団体戦で戦ってきたから。一人ひとりは非力でも、組織力を発揮して他の動物たちを圧倒できたのです。
自分はいつも仕事帰りに同僚たちと一杯飲みに行くのが好きなタイプだから、きっと「つながり」遺伝子の持ち主であり、長生きできるに違いない……。そんな前向きな想像をしたくなりますが、そんなタイプは恐らく11番目の染色体にあるDRD2という遺伝子の持ち主。
クリスタキス教授によると、この遺伝子はお酒と関係しており、平たく言うと飲み友達が増える遺伝子です。飲み友達も「つながり」には違いありませんが、過度の飲酒でむしろ健康を害する恐れもありますから、要注意です。
脳は「つながり」によって進化した。
人類がどのくらいの数の人と「つながり」を作れるかという点に関しては、脳が果たしている役割は少なくありません。
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