日本人は真面目だから長生き?
性格と寿命をめぐる研究もアメリカではよく行われています。なかでもスタンフォード大学のルイス・マディソン・ターマン教授は1500人ほどの子どもたちを80年間以上追いかけるという鬼のような研究をしています。これはターマン研究と呼ばれる有名な研究です。
性格は大きく5つに分類されると言われています。
具体的には、開放性、勤勉性、外向性、協調性、神経症傾向であり、これはまとめて「ビッグ5」と呼ばれています。職務遂行能力とビッグ5は関連が深いので、就職試験などでの適性検査として用いられることもあります。
開放性は好奇心旺盛で新しいことにも心を開くオープンマインドな性格、勤勉性は自己統制力や真面目さを表す性格、外向性は社交的で外の世界に対して積極的に関わる性格、協調性は他人を思いやる優しさに満ちた性格、そして神経症傾向は不安や緊張が強い性格です。
ターマン研究では、このうち寿命ともっとも関わりが深い性格的な傾向は勤勉性であるという結論が出ました。それまでは開放性や外向性の方が健康的な性格であろうと考えられていましたが、その常識を覆したのです。
しかし改めて考えてみると、開放性が高くて外向的だと誘いに弱くてお酒を飲み過ぎることもあるでしょうし、「きっと大丈夫だろう」と根拠のない自信から無謀なことをして事故死するリスクもあります。
そういう意味では、勤勉な人は「運動した方がいいよ」とすすめられたら素直に運動しようとするでしょうし、「お酒はほどほどにした方がいいよ」と言われたらちゃんと言うことを聞くでしょう。食べ過ぎたり飲み過ぎたりしないし、あまり無謀なことをしないから死亡リスクも低くなるのかもしれません。
日本が世界有数の長寿国家であるのも、真面目で勤勉な国民性と関係があると考えられます。
孤独な人は死亡率が2倍になる。
血圧、コレステロール値、喫煙、運動、遺伝といった病気のリスクと健康に関わると言われているファクターだけでは説明できない“何か”の正体とは何なのか。これまでに見てきたように、予防医学の専門家以外の心理学者なども加わって懸命に探った結果、ようやく結論めいたものに行き着きました。
それが本書のテーマである「つながり」なのです。
「つながり」の重要性を初めて明らかにしたのは、1979年にバークマンとサイムという研究者が行ったアラメダ研究です。
この研究は、アメリカ・カリフォルニア州のアラメダ郡が舞台。30歳から69歳までの男女数千人を対象に9年間追跡調査して、婚姻状況、友人や親族との付き合い、キリスト教会など宗教的活動、政治活動、ボランティア活動などと死亡率との関係を明らかにしました。
すでに触れたように心臓病予防をテーマに行われたフラミンガム研究は、人類が初めてビッグデータを活用した研究でした。当時はコンピュータも何もない時代でしたから、得られた膨大なデータをどのように活用し、どう分析したら良いのかというノウハウの蓄積がまだ不十分でした。
その後、ビッグデータの分析手法が開発されましたし、コンピュータという頼れる武器も手にすることができました。さらに医師のみならず、心理学者、人類学者、経済学者といった各分野のオールスターキャストが知恵を集めて、何が健康に効きそうなのかをあぶり出してみました。そこで得られた結論が「つながり」だったのです。
たとえば、アラメダ郡の住民に「婚姻しているかどうか」「家族や親しい友人との付き合いがあるか」「宗教活動をしているか」「その他の組織活動への参加があるか」という4つの質問をしたところ、社会的に孤立している人は、社会的なネットワークを多く持つ人と比べると男性2・3倍、女性で2・8倍亡くなりやすかったのです。この結果は、「つながり」について関心を持たなかった多くの医療関係者に大きな衝撃を与えました。
男子校の出身者は未婚率が高く、短命である。
次はハーバード大学医学部の社会ネットワークの研究者であるニコラス・クリスタキス教授らの研究です。彼は「肥満は1600キロの隔たりを超えて感染する」というユニークな研究で知られていますが、他にも多くの興味深い研究をしています。それが「男子校出身者は短命である」という研究です。
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