高血圧もタバコも健康に良いと考えられていた。
これも現在の常識からすると首をかし傾げたくなるのですが、19世紀までは血圧は高い方が良いと思われていました。心臓から出た血管は末端に行くほどだんだん細くなりますし、老化で機能も低下します。そこで、血圧が高い方が全身すみずみまで血液が行き渡り、健康に良いはずだと考えられていたのです。
それを覆したのが1948年のフラミンガム研究。アメリカのマサチューセッツ州にあるフラミンガムという町で始まったこの研究は、コホート研究の先駆けでもあります。
コホート研究とは、ある集団を一定期間観察しながら、集団の特性による特定の病気の発生率の違いを調べる研究です。あらゆるフィールドでビッグデータ(処理が困難なほど大量で複雑なデータの集積)の活用が叫ばれていますが、フラミンガム研究こそは人類初のビッグデータを活用した医学研究です。ちなみにこの町が研究の舞台として選ばれたのは人口の移動が少ない田舎町であり、住んでいる人の性別、年齢、職業といった属性がアメリカ社会の典型的な特徴を備えていたからです。
第二次世界大戦後のアメリカでは心臓病で死ぬ人が多く、大問題になっていました。そこで、フラミンガム研究では、まず最初に30歳から62歳までの5209人(男性2336人、女性2873人)の住民を対象に生活習慣などと心臓病の発生率にどのような関係があるかを調べました。
その結果、血圧が高い方が心臓病の発生率が高いとわかりました。他にも、コレステロールやタバコが心臓病の危険因子となることが判明したのです。このことからフラミンガムは「世界の心臓を救った町」と言われています。
現代では諸悪の根源として毛嫌いされているタバコも、過去には健康に良いと考えられており、「健康のためにタバコを吸いなさい」と患者さんにすすめるお医者さんもいたそうです。
そもそもタバコは、アメリカの先住民たちが、魔除けなどの儀式として吸っていたもの。それがヨーロッパへ持ち込まれて19世紀から普及するようになりました。喫煙が健康に良いという誤解は、おそらくタバコを薬草の一種と誤解していたからでしょう。その後、医師を対象として喫煙者と非喫煙者の健康状態を調べたところ、タバコの有害性が明らかになったのです。
平成18年度厚生労働省研究班が男性14万人、女性15万人のデータを用いて分析した結果、40歳時点でタバコを吸っている人は非喫煙者よりも寿命が男性で約5年、女性で約4年短くなるとわかりました。
遺伝子では病気のリスクはあまり説明できない。
近年では病気と遺伝の関わりについても注目が集まり、太りやすいか、がんにかか罹りやすいかといった兆候を遺伝子検査で診断するサービスが流行っています。
ヒトの遺伝子の総体であるヒトゲノムの解読が2003年に終わり、ヒトが持っているおよそ2万5000個の遺伝子が特定されました。
ヒトゲノムの解読により、人類は病気との戦いで頼れる武器を手にしたと期待されていましたが、遺伝子だけでは「どんな病気に罹りやすいか」は十分にはわからないことが判明してきました。
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