イラスト:長尾謙一郎
柴那典(以下、柴) 今年もあと少しということで、今年後半のグッときた曲を挙げつつ、2014年の音楽シーンを振り返っていこうと思います。大谷さん、どうでした?
大谷ノブ彦(以下、大谷) 実はね、今年痛感したのは、結局音楽を心底好きな人って少なくなったんだなっていうこと。
もちろんライブとかの現場の熱量はすごいですよ。だけど、ロックフェスでも中堅バンドを観る人が少なくなったし、レジェンド系の大御所アーティストの動員も厳しかった。
柴 サマーソニックの動員は去年より減ってましたね。
大谷 トリのクイーンをちょっと観て帰った客、たくさんいましたからね。それだけで満足なんですよ。SNSに投稿するネタでしかないっていう。
柴 その代わりULTRA JAPANはチケット即完で盛り上がってましたね。ソニックマニアもソールドアウトだった。
大谷 いわゆるEDM系 ※ のフェスですよね。そこにくるお客さんって、誰が出る、誰が出ないというより、その空間自体を楽しむようになっている。
※EDM:エレクトロ・ダンス・ミュージックの略。電子音を基調に主に4つ打ちにポップなヴォーカルがのったものが多い。
柴 ハロウィンの時に渋谷で騒いでた人たちと似た人種かもしれないですよね。そこに音楽があるか仮装があるかだけの違いで。
大谷 そう! 一緒なんですよ! ハロウィンの時はクラブもすごい盛り上がりだったし。ぼくらダイノジのDJもULTRA JAPANが明確な目標になった。エンターテイメントをやっていくには、今後、そこの人たちとちゃんと向き合わないと、先行きはどんどん厳しくなっていくと思う。
だから、一曲目に紹介しようと思ったのが、アップアップガールズ(仮)の「Beautiful Dreamer」なんです。
大谷ノブ彦 PLAY→アップアップガールズ(仮)
「Beautiful dreamer」
柴 Base Ball Bearの小出祐介さんの提供した曲ですね。大谷さんの推すポイントは?
大谷 アップアップガールズ(仮)って、いち早くEDMサウンドをポップス化していたアイドルの一つなんですよ。激しくアガる曲が中心で、だからこそライブだとその中でBPMを落としたこの曲が映えるんです。
でね、僕はそのライブを観ながら、ULTRA JAPANにアップアップガールズ(仮)が出たら大逆転なんじゃないか?って思ったんですよ。
柴 EDMフェスにアイドルが出たら、それは確かに新しいですね。でも可能性はある。
大谷 モーニング娘。もEDMを取り入れているし、ULTRA JAPANにはモー娘。もアリだと思うな。
柴 そうなったら、アイドルシーンも変わってきそうですね。今はなんだかんだ言ってもアイドルのお客さんしか相手にしていない。
大谷 そうなんです。だからハロウィンで騒いでたような人たちにちゃんと対応しなきゃいけない。
柴 音楽単体ではなかなかエンターテイメントにならない状況があるわけですね。
大谷 そう。これは大きなテーマですよ。これは現場にいて思うことなんだけど、そういう状況を深刻ぶって問題だって嘆くだけより、バンドやミュージシャンもその状況に対応するしかない。それはすごく大事なことなんじゃないかな。
柴那典 PLAY→OK GO
「I Won't Let You Down」
柴 僕も最近考えているのもそういうことなんですよ。音楽単体ではエンターテイメントにならない状況っていうのを、まさに体現しているのがOK GO。
大谷 まさにそうだ。
柴 このビデオ、かなり話題になったんですよね。反響も大きかったけれど、でも肝心の曲については誰も感想を言ってない。ほとんどの人が語っているのが撮影のテクノロジーとか演出のことばっかりで。Perfumeが出てるとか。
大谷 そっちのほうがウケるわけですよね。映像ありきだから。
柴 OK GOって、YouTube以降の状況に世界で最初に対応したバンドですからね。であるからがゆえに、その戦い方がこんなところまで来ちゃってる。
ウォーキングマシンを利用しコミカルに踊るメンバーの姿が話題を呼び、2007年度のグラミー賞(Best Short Form Music Video)を受賞
柴 で、これと全く同じ現象が生じているのが平井堅の「ソレデモシタイ」なんです。
柴那典 PLAY→平井堅
「ソレデモシタイ」
柴 このビデオ、何がすごいって、平井堅がインド人になってるんですよ。しかもインドで本気でロケをやってる。