福島にはなぜ「米どころ」のイメージがない?

前回、福島の農業の数字について、2つの問題への答えを出しました。
問1 「福島県の米の生産高は全国都道府県ランキングで、震災前の2010年は何位で、震災後の2011年には何位か?」
問2 「福島県では放射線について、年間1000万袋ほどの県内産米の全量全袋検査を行っています。そのうち放射線量の法定基準値(1kgあたり100Bq)を超える袋はどのくらい?」
答えは、
問1 「2010年が4位、2011年が7位」
問2 「約1000万袋のうち、2012年度生産分で71袋、2013年度生産分で28袋」
ちなみに、問2のほう、現時点での今年の基準値超えは0袋です。誤解をしている人の中には「震災前後で5位から40位」「10万袋が基準値超え」みたいなイメージをもっている人もいますが、それは大間違いです。
さて、問1から、この数値をどう読むか考えていきましょう。
まず「2010年が4位」という数字。この数字自体に意外さを感じる人もいるかもしれません。「福島ってそんなに米を作っていたの?」という驚きです。
全国都道府県で見たときに、米どころのイメージが有るのは「魚沼産コシヒカリ」で有名な新潟とか、ササニシキなどで有名な宮城、あきたこまちもある秋田。それに東京のスーパーなどでは、茨城・栃木・群馬などの産地の米が置いてあることも多いかもしれませんね。
そんな中で福島が4位であること。これは特別なことではなく、だいたい長い時期でランキングを見てきても定位置です。天候や台風など災害などの影響で多少順位が変動することはあるが、このぐらいの「有数のコメ産地」だったのは急に始まったことではありません。
ただ、なんで福島には「米どころ」イメージがないのでしょうか。
理由は様々な側面から語りえますが、農業の専門家に話を聞いていくと皆が共通して言う大きな要因が一つあります。
それは、「豊かだから」ということです。
豊かだから「米どころ」イメージがない。これははじめて聞く人には不思議に聞こえる話かもしれません。普通は逆ではないか、と。つまり「豊かならば米どころイメージもついてくるのではないか」という風に思う人もいるはずです。
「豊かだから」こそ、イメージづくりが必要ない
まず、どう「豊か」なのか説明します。福島は面積が北海道・岩手の次、全国都道府県の中で3位の広さです。もちろん、広いからといって土地全部使って農業をやっているわけではありません。ただ、農地に使える面積が広いと、単純に生産量がついてくる部分もあります。
で、「広さ」だけではなく、それ以上に重要なメリットが出てくる。それは、土地と天候の「多様さ」です。
天候の多様さとは何か。例えば、福島県の沿岸部、浜通りと呼ばれる地域の天候は、東京と同じかそれよりも暖かいくらいです。太平洋の海流や地形、日照など理由はいくつかありますが、東京でも結構雪が降っている年にそれほど雪がふらないこともある。
なので、いわき市などでは地元で「東北の湘南」と自称したりする、ちょっと恥ずかしい感じのならわしがあります。暖かいイメージ、それに海があってサーフィンなどできるイメージを売りだそうということです。実際に世界的なサーフィン大会が開かれ、芸能人がお忍びでサーフィンに通っているなんて話もありました。
あと、ミスコンテストを「サンシャインガイド」と呼んだり、マラソンも「サンシャインマラソン」という名前だったりします。これも同様のことです。
一方で、浜通りから西に進んでいくと福島市・郡山などがある中通り、そして、会津地方へと至ります。会津地方は、これはもう雪深い地域です。地域によっては新潟と隣接していてほとんど日本海側と同様の場所もありますし、内陸部で標高が高いとさらに寒いところも出てくる。豪雪地帯があり、1年の3分の1は雪が降って、白と黒だけの景色になるモノクロの世界だったりします
つまり、福島の東側の沿岸部をスタートして西に車で向かって行くと、これはわかりやすく言えば、東京から北海道に飛行機で縦断するのと同じような気候の変化が見られます。
これが「天候の多様さ」です。このもとでは何が起こるのか。
例えば、会津地方の米は新潟県魚沼産コシヒカリみたいに高級品としてのブランドイメージがあります。これは会津地方のきれいな水や豊かな土を前提にしたものです。
っていうか、地図を見て頂ければわかりますが、魚沼とたいして離れていないし、同じような地形・気候にあるわけだから、同様においしい米ができる条件が揃っているのもわかります。
しかし、これに対して少し穿った見方をしてみることも必要です。
北国・雪国の農作物はまさに魚沼産コシヒカリとかあきたこまちがそうであるように、ブランド化に成功しているものが多くあります。
なぜブランド化が必要なのか。北国・雪国では、先に述べたとおり1年の3分の1がモノクロの世界。ということは、雪の降らない地域と競争するには、残りの限られた時期に良い作物を集中して生産し、高い収益を出さなければならない。ディスアドバンテージがあるわけです。
そこで、例えば、雪が振らないところでは二期作・二毛作、ハウス栽培とか余裕でやっている中で、量では勝てない部分も出てくるので質で勝とうとせざるを得ない。質で勝つとは、限られた生産物の付加価値を上げる、単価を上げていく戦略をとることになります。
だから、実際に美味しいことはもちろん、より「こだわり」や「手間ひま」を商品を売り出す際の物語として付加していくことになる。「ブランド化」していくわけです。
その結果、市場でニーズが出て、もっと生産体制が強化されていく。いわば「質から量へ」動いていきます。
逆に、量で勝負する戦略をとると、この付加価値部分にはあまり力を入れないことにもなります。こちらは必ずしも「量から質へ」と動くわけではありません。市場のニーズと生産体制が均衡状態にあるからです。
もちろん、どっちが良いとか悪いとかではありません。ということで、端的に言えば、「豊かであるからこそ、米どころイメージを作ることにそれほど注力する必要はない」という前提が大きな構造としてありました。
「時期をズラす」という戦略
ここで、コメ以外の物にも目を広げていきましょう。例えば福島の有名な作物として思い浮かべるのはなんでしょうか。
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