ついに書籍化決定!
本連載をまとめた書籍『すべてのニュースは賞味期限切れである』が、12月26日にアスペクトより発売されます。速水健朗とおぐらりゅうじ、ふたりのライターが好き勝手論じてきた2014年のニュースに加えて、その後の追加コメントもたっぷりの一冊。年末年始、一年の振り返りにぜひご購入ください!
放送部の中村くんはどうして炎上したんですか?
速水健朗(以下、速水) 11月21日、衆議院が解散したね。
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 中村です! 小学4年生です! 嘘です! どうして解散するんですか?
速水 例の小4になりすました事件ね。今回はそれを取り上げよう。NPO「僕たちの一歩が日本を変える。」の元代表・青木大和の炎上案件。これ結論から言うと、SEKAI NO OWARIと似ているんだよ。
おぐら え!? セカオワが解散するんですか! どうして解散するんですか? 僕好きなのに! 紅白初出場が決まったばかりなのに!
速水 そのノリはなんなの?(笑)この案件と、構造というか印象が似ているっていうこと。なぜそんな結論に至ったかは、あとあと説明するとして。
おぐら ほっ。衆議院は解散しても、セカオワは解散しません! 僕の早とちりと勘違いのせいで……「皆さんに嘘をつく形となり、本当に申し訳ありませんでした」。
速水 それ、青木大和の謝罪文のコピペでしょ(笑)。まずは事件の経緯を説明しようか。11月21日に安倍政権が、アベノミクス続行の是非を問うというアベノミクス解散を行った。その直後の11月22日に、自称小学4年生、放送部の中村と名乗る人間がつくったという触れ込みで、why-kaisan.comというホームページが立ち上がり、有名Twitterユーザーたちに向けて、それをアピールするスパムが送りつけられたと。
おぐら 蓮舫、堀江貴文、田原総一朗、乙武洋匡、田中康夫などのTwitterアカウントにリプライを送っていました。新しいタイプのクソリプですね。
速水 でも、すぐにおかしいぞと思われ、速攻で突き止められた。
おぐら 言葉遣いや態度などから「小4にしては不自然だ」という文系的な推察は、まぁ誰でもできるとして。興味深かったのは、ウェブエンジニアやネットに詳しい人たちが、あくまで理系的にサイトのコードや設定、運用されているサーバから「小4ではあり得ない」と指摘したこと。しかも指摘をしたのが特定の個人ではなく、みんなで寄ってたかって。ネットならでは集合知で暴いていった経緯が圧巻でした*1。
*1 「小学4年生」でないことを証明していくツイッターの集合知が凄い
速水 民主党のマスコット民主くんが、「天才少年現る!」って最初に反応したもんだから、民主党の自作自演なんじゃないかって思われたんだけど、ドメインの登録名からNPO「僕らの一歩が日本を変える。」の犯行だってことが周知された。
おぐら そのNPO団体の代表が20歳の青木大和で、彼はさっきコピペした謝罪文に加え、「なお、今回の行動は僕個人で行ったことであり、どの組織とも一切関係ありません。これだけは、誓って間違いありません」とも書いています。
速水 今回の炎上は、年齢を偽っての政権批判という「左翼工作員乙」的なものでもあったんだけど、それ以上に青木大和という存在に対するものだよね。彼には、「炎上素」が多分にあった。
おぐら 「炎上素」っていうのは、いわゆる炎上のタネですね。たしかに彼は、もともとちょっとした有名人で。今回の炎上以前は、その名前までは知りませんでしたけど、高校生が「高校生100人×国会議員」を企画とかしているって話は知ってました。
速水 俺は、『もしドラ』の岩崎夏海が書いていたことが、もっとも納得がいった。
彼が作ったNPOの名称である『僕らの一歩が日本を変える。』——を見ればよく分かる。ここには、言外に『僕ら以外の一歩は日本を変えない。』という偉そうな態度が、隠しようもなく滲み出ているのだ。
[号外]「#どうして解散するんですか?」が人々を苛立たせた本当の理由(2,045字) - ハックルベリーに会いに行く
僕たちっていうのは、ほんと「僕」と数人のことだよね。僕ら以外は政治には興味が無い。僕らは選ばれた者だから政治に興味がある、っていう。
おぐら まさに選民意識というやつですね。
速水 そもそも俺が一番イラッときたのは、謝罪文だよね。謝罪文で、「あー俺です」みたいな感じで、ネット民は全部俺のことを知っているかのような態度で書き始めている。
皆さんこんばんは。
青木大和です。放送部の中村とは、僕のことです。
どうして解散するんですか?
おぐら 文中で「僕」を多用しているのがナルシストっぽいなと思って数えてみたら、1200文字弱の文章で13回使ってました。編集者として赤入れすれば、3分の1には減らせます。あとなぜか途中1回だけ「私」になっているのもポイントです。
速水 この炎上のテーマは、「野心」だと思う。アメリカには、青木大和のような野心を隠さないタイプってたくさんいるんだろうけど、日本では珍しいからみんな対処に困って炎上させるしか思いつかなかったんじゃないかな。僕は正解があるとしたら、小馬鹿にするべきだったと思う。
おぐら 批判して炎上させるのは間違いだった?
速水 批判されるのは仕方ないけど、抹殺は違うでしょ。むしろキラキラして意識高いやつをちゃんと小馬鹿にして笑い飛ばす文化が日本に根付くべき。例えばプロレスってアメリカでは保守層の娯楽なんだけど、WWEっていう団体にジョン・ロウリネイティスって悪役がいるのね。彼は、民主党の大統領候補のギミックで、野心家でキラキラしたことをいうんだよ。最終的には、労働階級のスキンヘッドのレスラーにぼこぼこにされるんだけど。アメリカでは、そういうリベラルを笑い飛ばす文化が確立している。
満を持して登場した「意識凄まじい系」
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