血統書を読んで、19世紀の馬に思いを馳せる
朝倉祐介(以下、朝倉) と、ここまでいろいろな本の話をしてきたんですが、実際のところ僕の人生を変えた1冊は月刊『優駿』ですね
—— ええと、月刊『優駿』とは……?
朝倉 競馬雑誌です。
—— ああ、朝倉さんは中学を卒業してから、騎手を目指してオーストラリアの騎手養成学校に入ったんですもんね。
朝倉 『優駿』はいい雑誌ですよ。記事がつくりこまれているし、写真もきれい。まあ、競馬界の『Number』みたいなものです。「夏の馬産地をめぐる」なんて特集を読むと、ワクワクしますよね! 「ああ、北海道にあるノーザンファーム行きてえなあ」なんて。
—— なんだか、ここまでのインタビューとぜんぜんトーンが違いますね(笑)。もともと、競馬に興味をもったのは何がきっかけだったんですか?
朝倉 家の近所に阪神競馬場があったからです。馬を見て、乗ってみて、その魅力に夢中になってしまった。中学生のときは、馬の血統書をずっと読んでました。
—— 血統書!? 血統書って読むものだったんですね(笑)。
朝倉 辞典みたいなのがあるんですよ。種牡馬の血がどうやって続いているのかを延々とたどっていくのが楽しくて。「ここにネアルコの血が生きてるから、この馬はこういう特徴があるのか」とかね。あ、ネアルコっていうのは、1930年台後半に活躍した、天才馬産家フェデリコ・テシオが生産した歴史的な名馬なんですけどね。
—— は、はい。
朝倉 インブリードと言って、血脈をたどると同じ馬の血が入っているもの同士をかけ合わせることが、競馬界ではよくおこなわれるんです。たとえばオルフェーブルは、父方の4代前と母方の3代前にノーザンテーストがいます。この4代前の祖先(6.25%の血量)と3代前の祖先(12.5%の血量)が共通の馬の場合、4×3のインブリードといって、その時の血量は6.25%+12.5%で18.75%になって、それは奇跡の血量と呼ばれてるんです。
—— そ、そうなんですか。
朝倉 そういう血筋を見て、「この馬のきつい性格は、この祖先から来てるのか」とか、そういうことを考えるんですよ。で、さかのぼって、19世紀の馬に思いを馳せたりするわけです。19世紀のハンガリーにキンチェムっていう歴史的な競走馬がいました。すごくタフな馬だったんですがさびしがりやで、親友のネコが一緒にいないと移動しなかったそうなんです。かわいいですよね! 1930年代にアメリカで活躍したシービスケットは、小説や映画の題材にもなりました。その子孫は、日本で走ってるんですよ。
—— おお、そういう今につながるストーリーがあるんですね。
朝倉 そこが競馬のおもしろいところです。血統で脈々と受け継がれるものを、長い年月をかけて追っていく。競馬ファンは、自分が応援していた馬の子どもが走りだすようになったら一人前、と言われているのですが、もう僕が子どもの頃応援していた馬の孫が走ってるんです。世代をまたいで、終わらない物語を読んでいるような感じなんですよね。
馬、騎手、調教師、それぞれにストーリーがある
—— あまりにも熱意を込めて語ってくださるので、だんだん競馬に興味がわいてきました(笑)。
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