羽賀翔一 vol 3. 「自分のなかに生きて動いているものを残すんだ」という思いは、絵から伝わる

『バガボンド』、『ドラゴン桜』、『働きマン』、『宇宙兄弟』などの編集を担当していた佐渡島庸平さんが見出した新人作家である羽賀翔一さんへのインタビュー。前回までは11月7日に発売された短編集『ケシゴムライフ』の制作秘話をご紹介いただきました。今回は、羽賀翔一さんがマンガ家になった経緯、そして初の投稿作品「インチキ君」についてのお話が中心です。

小学生の頃、「よいこ帳」に描いていた連載マンガの楽しさが原体験

— 前回まで、「ケシゴムライフ」制作の裏話をいただきましたが、そもそもどんなきっかけでマンガ家を目指されたのでしょうか。大学4年生のときに初めて投稿したのですよね。

羽賀翔一(以下、羽賀) はい。大学4年生の11月に講談社のモーニングの賞へ投稿したのが初投稿です。「インチキ君」という作品ですね。翌年の2月に結果がでて、続く2-3月には「ちばてつや賞」へ投稿する作品(「ポートレート」)を描いて。その後3月から「ケシゴムライフ」のネームにとりかかった、というスケジュールでした。

— 大学卒業間近から、怒濤の展開ですね(笑)。大学4年生からマンガを描いたというのは、マンガ描きとしては比較的遅いスタートのような気がするのですが、なにかきっかけがあったのでしょうか。

羽賀 そうですね。小さいころから絵を描くことは好きで、「よいこ帳」というまっしろなノートにドラゴンボールの真似事みたいなマンガを描いていたんです。小学3-4年生ごろになるとストーリーを自分でつくって楽しんだりもしていて。想像をいろいろと膨らませて、「よいこ帳」で7冊くらい描いていました。

— 7冊! 連載作品ですね。 これはプロットを意識して作っていたのですか。

羽賀 そうですね。6冊目の最後のページに、「次巻、最終巻」って書いたんですよ。友達が「しょうちゃん、なんで次が最後だってわかるの?」と聞いてきたんですけれど、僕の頭の中ではストーリーができていて、しかも6冊も描いていれば1冊に描ける分量もわかるんですよね。だから、「次で終わりなんだよ」と言えた。最後はたしか1-2ページは余ってしまったと思うんですが、予想どおりに描き終えました。
 そして、この体験が、すごく楽しかったんです。マンガを通じて他の人とコミュニケーションをとっていたし、その後ずっと自分の根っこに残るような経験だった。けれど、そこからマンガ家になりたいと思って描き続けてきたかというと、そうではないんですね。中学生くらいになると、既存作品の真似事をしている自分がどこか「オリジナルじゃないじゃん」と思うようになってきてしまいました。

— マンガを描かなくなってしまったんですね。

羽賀 マンガを描くモチベーションがだんだん下がってしまっていました。マンガなんか描いてもモテないしと思いましたし、また、まわりに同じように描いている人がいるわけでもない。高校生の時には、美大に行こうかと思っていた時期もあったのですが、結局それもせずに、どんどん消極的になっていましたね。
 大学に入ってから、初めて、小説をすごく読むようになったんです。すると、そこで書かれている深い感情や、見たことのない世界が、それまであまりマンガでは見たことのないものだった。小説を読みながら、いまの自分ならオリジナルのストーリーをつくれるんじゃないか、と思うようになったんですね。これが大学2年生のころです。ただ、すぐにアイデアが浮かぶわけではなく、何を作ろうか、何を作ろうかと考えていて、ちょっとした断片は思いつくもののストーリーは思いつかない日々が続いていました。

集団のなかでレッテルを貼られることに感じる閉塞感が、初の投稿作のテーマ

— 再びマンガを描くきっかけを得られたのが大学4年生だったと。

羽賀 はい。実は、卒業も迫り、学校の先生になろうとしていたんです。行く先も決まって、自分の人生の道が確定していきつつある中で、ふと振り返ると、「今までの人生の中で投稿するというチャレンジをしたことがないな」と思ったんですね。このまま挑戦しないままに教壇にたってはいけないな、卒業までに一度ちゃんとチャレンジしてみよう、と思うようになりました。
 ただ、マンガを投稿する、と決めたのはいいんですが、原稿用紙にGペンで描いて、みたいな通常のやり方でやっても、こう、ワクワクしないなと感じたんですね。そう思っている時にみつけた講談社の新人賞が、唯一、形式が自由だったんです。何に描いてもいいし、マンガじゃなくてもいい、という新人賞(MANGA OPEN)。これが自分に合っている、と思いました。こういう賞をやっている編集部なら、自分のおもしろさもみつけてくれるんじゃないか、と思って投稿した。それが、「インチキ君」というマンガです。

— 初の投稿作ですよね。調べてみると、「インチキ君」で第27回 MANGA OPEN 奨励賞を受賞しているんですね。どんな作品だったんですか。

羽賀 「インチキ君」という少年は、ゾウ(象)を飼っているんです。そして、そのことを周りに隠していたせいで、インチキ君というあだ名がつけられてしまう。インチキ君はそのことにとても苦しんでいて、何をしても、たとえば100点をとっても「あいつはインチキして100点をとったんだ」と言われてしまう。そんな空気のなかで、インチキ君が同級生の集団に対して、インチキ君ではない自分を認知してもらうために奮闘する、という話です。
 僕のなかで「名前」や「人からの印象」がひとつのテーマとしてありまして。ケシゴムライフにもそんな感じはあるかもしれない。人や集団のなかで生きていくことって、イメージを与えられる、シールを貼られる、という面がありますよね。「あなたはこの役」というなんとなく決められたその役の中で立ちまわらなくちゃいけないような。その役が(自分に)合っている人は楽しいと思うのですけど、合っていないのにそれを演じなくてはいけないのは苦しいですよね。
 「インチキ君」を描いたときに、この貼られてしまった印象から(そう自分で思い込んでいるだけなのかもしれませんが)「抜け出そう」という感覚が自分自身にもあり、インチキ君と当時の自分がすごく合っていたんです。僕は、マンガ家になりたい、と思っていたけれど、そのことを友達や家族に話したことがあるわけではなくて。当時の自分は、少し自閉的な感じで、自分に根ざす思いなどを簡単に表に出してはいけないものという感覚があったんですね。

— 自分で自分にシールを貼っていた、ということでしょうか。

羽賀 うーん、そうでしょうね。たぶん、そうです。

— そのような閉塞感を感じている人は比較的いると思うんですが、それを、ゾウを飼っている少年という形で表すというのはおもしろいですね。いきなり少年がゾウを飼っているところから始まるんですよね。この「インチキ君」は、マンガ誌など何かに掲載されたことはあるんでしょうか。

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本棚は人を表す、といいます。本連載は、さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人のもつ本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていこうという試み。本がいまの自分をつくったという人から、ほとんど本を読まない人の本...もっと読む

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takurokoma んーいい!! 3年以上前 replyretweetfavorite