第75回】プーチン大統領がARDのインタビューで語った"真っ当な言い分"

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


インタビューを受けるプーチン大統領。「Tagesschau」の動画アーカイブより

穏やかな口調で存分に話すプーチン大統領

これほど面白いインタビューは久しぶりだった。ウクライナの動乱が始まって以来、ずっと悪者になっているロシアのプーチン大統領。報道の表通りだけを見ていると、欧米の主張ばかりが大手を振っていて、プーチン大統領は世界の平和と秩序を乱す大悪党だ。

ただ、ネットで裏通りを探していくと、ロシアの言い分についての解説も結構たくさんあって、それを読むうちに、プーチン大統領やラブロフ外相の言っていることのほうが正論ではないかと思うことも少なくない。

誰のどの言葉をどれだけ信じればよいのか見当がつかないとき、インタビュー映像は最高の贈り物だ。しっかりしたインタビュアーがいて、しかも、答えの部分が後で切ったり貼ったりされていないと納得できるなら、それはとりわけ役に立つ。

11月16日夜、ARD(ドイツ公共放送連盟)が放送したのが、まさにそんな珠玉のインタビューだった。インタビュアーはARD傘下のNDR(北ドイツ放送)のベテラン記者、ザイペル氏。インタビューはきっかり30分。オーストラリアでのG20の直前に、ウラジオストクのスタジオで撮られたという。外は、零下35度だったそうだ。

インタビューというのは、主張だけでなく、表情、態度、論理の構築の仕方など、その人物のさまざまな面をゆっくりと観察することができて楽しい。もちろん一番ありがたいのは、その人物の口から直接出た言葉を聞けることだ。

インタビューが誰かの意思に沿って編集されているときはそのかぎりではないが、今回、プーチン大統領は穏やかな口調で、邪魔されることなく存分に話していた。後の編集で捻じ曲げられている印象も、私は受けなかった。翌日、ARDのウェブサイトには、オリジナルと、ドイツ語吹き替え版と、英語吹き替え版がアップされた。

(インタビュー動画:http://www.tagesschau.de/multimedia/video/video-40685.html )

そのインタビューの内容から、いくつか紹介したい。

ロシアの軍事的行動、ウクライナ問題、クリミア併合について

まず、ザイペル氏が最近のロシアの軍事的行動に触れる。NATOも黒海で大演習をおこなったりしたが、ロシアの軍事的威嚇も目に余るという指摘。

それに対してプーチン大統領は答える。NATOは二度拡大している。2004年に7ヵ国が加盟し、2009年さらに2ヵ国が加わった。さらに、基地の数がどんどん増えた。

「世界中で増えていったのはNATOの基地だ。そのいくつかは、我々の国境のすぐ近くにある」「あなたは、演習や、航空機、船舶の動きなどに言及された。我々の演習は、すべて中立の海と空でおこなわれている」

プーチンは、ザイペル氏の長い質問を、一切メモも取らずに、つまらなそうな顔で聞いているが、自分の番になるとすべての質問に完璧に答えていく。質問の間違いまで指摘する。質問はドイツ語でなされ、プーチンはイヤホンで同時通訳を聞いているが、若いころ秘密警察のボスとして東独のドレスデンに駐在していた彼は、ドイツ語は誰よりも堪能だ。

プーチン大統領は続ける。

「1991年から92年、私たちは、空軍の戦力を停止しようと取り決めた。我々の空軍機を格納庫に納めたままだった。しかしその時期、長いあいだ、我々のパートナーである米国は偵察を続けた。数年前、その状況が変わらないということを認めたのち、我々も偵察飛行を再開した」

そのあと、話は現在のウクライナ問題に移る。EUとウクライナが結ぼうとした協定が、ロシアの介入で潰れたこと。これが、最終的にキエフのデモと、前政権の崩壊、そして、現在のウクライナ紛争につながっていく。

しかし、これに関してもプーチン大統領の答えは明確だ。EUとウクライナが結ぼうとしていた協定の要は自由貿易だ。しかし、EUの品物がウクライナに関税なしで入ってきたら、ウクライナと自由貿易の協定を結んでいるロシアに、それがそのまま流れ込むことになる。ロシアが認めることができないのは当然だ。

「いつか関税を廃止していこうというのはわかる。しかし、急にはできない。ウクライナとロシアの間に深刻な問題が起こる。我々は説明を試みた。するとその答えは『この問題には口をはさむな』ということだった」

それが元でデモが激しくなり、2014年2月、動乱中のキエフにドイツ、フランス、ポーランドの外相がやってきた。ヤヌコヴィッチ大統領と反体制派の間で、事態を鎮静するために交わされた合意書を保証するためだ。

「ウクライナ政府は、もちろんそれが守られると信じていた。私はその晩、合衆国の大統領と電話でその話をした。しかし翌日、クーデターが起こった」

これによって、ヤヌコヴィッチ大統領は逃亡に追い込まれたのだった。

「ヨーロッパの外相たちは、合意文書の保証人などになるべきではなかった。あるいは、保証をしたのだったら、それを守るべきだった。ところが、その後、彼らはそそくさと引き揚げ、そんな合意書のことは思い出したくもないらしい。私は、この一件を完全な誤りであり、非生産的なことであると思っている」

また、ロシアのクリミア併合が国際法の侵犯かという問題。アメリカとEUは、ロシアのクリミア併合を国際法違反だと糾弾し続けている。そのあとおこなわれた投票さえ無効だとする。これについてプーチン大統領はこう答えた。「明確、かつ最新の先例がある。それはコソボだ」と。

2008年、国際司法裁判所は、コソボが独立するかどうかの決定権は、コソボ人にあるとした。それを受けて、コソボ議会はセルビアの反対を無視して、セルビアからのコソボ自治州の独立を可決した。コソボは独立したのだ。セルビアには、コソボの独立を承認する必要も権利も与えられなかった。当時、ロシアは、これを国際法に反するものと主張したし、今もコソボを独立国として承認していない。

思えば、それ以前にも、スロバキアはチェコから独立したし、東ティモールも国連主導の選挙によってインドネシアから独立した。2011年には、南スーダンもスーダンの反対を押し切って分離独立した。そのすべてをEUは支援したのだ。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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