一故人

宮史郎—女の悲哀を歌っても醸し出す「道化の味」

オリコンの歴代シングルチャートで、「およげ!たいやき君」に次ぐ「女のみち」。その大ヒット作を歌った宮史郎。この曲と宮の人生について、ライターの近藤正高さんが描き出します。

「女のみち」は男尊女卑かウーマン・リブか?

かつての歌謡曲には、女の立場から書かれた詞を男が歌うというものが少なくなかった。思いつくままにあげていけば、小林旭「昔の名前で出ています」、森進一「盛り場ブルース」、内山田洋とクールファイブ「そして、神戸」、中条きよし「うそ」、菅原洋一「知りたくないの」(これは洋楽のカバーだが)、増位山太志郎「そんな女のひとりごと」、島津ゆたか「ホテル」などなど、やはり大半は演歌だ。それでも1973年にリリースされたかぐや姫の「神田川」がヒットしたあたりから、このスタイルはフォークやポップスにも広がり、グレープ「精霊流し」、小椋佳「めまい」、狩人「あずさ2号」などといった曲が生まれている。

歌謡曲における“クロス・ジェンダー”(ジェンダーとは歴史的・文化的・社会的に形成される男女の差異のこと)については、ちょっと前に歴史学者の與那覇潤のツイートを発端にこんなやりとりがあったことを思い出す。どうやらいまの大学生には、男が女の立場で歌うというのが奇異に映るらしい。

そんないまの若い世代が、2012年11月19日に亡くなった宮史郎の歌う「女のみち」(1972年。リリース時の名義は正しくは「宮史郎とぴんからトリオ」)を聴いたら、さらに奇妙に思うのではないだろうか。何しろリリースされた時点でさえ、当時高校生だった映画監督の金子修介は「なんじゃこりゃ」と思ったというのだから。歌謡曲ファンの金子は、「ポップ体質」とともに「演歌ゴコロ」も持ち合わせているつもりであったが、「女のみち」には《歌内容が余りにも古いのではないか》と疑問を抱いたという(『失われた歌謡曲』)。

「女のみち」の歌詞からは、女が男からさんざん虐げられたあげく棄てられながらも、なおも未練が断ち切れないという思いが読み取れる。男尊女卑的とも反動的ともとられてもしかたないだろう。

だが、米文学・ジェンダー批評を専門とする舌津智之はこの歌について、読みようによっては、同時代の女性解放運動(ウーマン・リブ)とも共鳴する、「新しい」男女観さえ打ち出していたのではないか……という解釈を試みている。舌津によれば、1番の歌に出てくる「うぶな私がいけないの」というフレーズが、疑問文なのか、平叙文なのかが重要な解釈の分かれ目となり、《それに連動して、「女のみち」が肯定されるのか、否定されるのか、別々の文脈が見えてくる》というのだ(『どうにもとまらない歌謡曲』)。

《まず、保守派は以下のような読みを歓迎するであろう。「あの人にすべてを捧げてしまった、うぶな私がいけないって言うの? いいえ、それも運命だったのよ。私には、あの人が最初で最後だから、もう別の人に恋したりしないわ。そうやって一途に忍ぶ生き方こそが、女のみちなんですから。」(メロディーの高低を考えると、「いけないの」の部分は音程が尻上がりなので、疑問形の語尾に聞こえやすい)。(中略)しかし、まったく同じ歌詞は、次のようなラディカル・フェミニストのメッセージにも読めてしまうのだ。「あんな人にすべてを捧げたりした、うぶな私が愚かだったの。こんな下らないものが女のみちだと言うのなら、男の人に恋するなんてバカげたこと、もうご免被りたいわ。」》(舌津、前掲書)

この文のあとにも2番、3番の歌詞が分析され、「女のみち」の歌詞が受け取り方しだいでは正反対の意味づけを許す、きわめて多義的なものであることが示されている。この曲が出た当時、まずホステスたちを中心に人気を集めたというのもそのあたりに理由があるのだろう。

自主制作盤から生まれた起死回生の大ヒット

そもそも「女のみち」は、宮史郎にとって初めて詞を手がけた歌だった。史郎は「ぴんからトリオ」の一員として寄席やストリップを歌ってまわるなかで、水商売の女性たちの生活を見聞きしたり、彼女たちから相談を受けることもよくあったという。彼が詞を書くにあたり思い浮かべたのは、そんな女性たちのことであった。

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一故人

近藤正高

ライターの近藤正高さんが、鬼籍に入られた方を取り上げ、その業績、人柄、そして知られざるエピソードなどを綴る連載です。故人の足跡を知る一助として、じっくりお読みいただければ幸いです。

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