福島の人口問題に「地域間格差」が起きている!?【後編】

いま福島に生まれている地域間格差とは、人口の「流入」自治体と「流出」自治体との格差。本来は今後20~30年かけて緩慢に起こるはずだった変化を10倍速で進行させてしまった、それが原発事故でした。福島の問題と日本の問題の接点を、社会学者の開沼博さんは、今回も改めて指し示します。

福島では人口が増えている

 これまで長々と論じてきた福島の人口問題ですが、今回でいったん区切りをつけます。【前編】での余談の中に、2つのポイントがありました。一つは、【中編】でお話しした「課題の単純化の問題」。そして、もう一つが、これから話す「地域間格差の問題」です。

 福島にいま生まれつつある「地域間格差の問題」。いかなる地域間格差があるのか。
 それは、人口流入自治体と人口流出自治体との格差です。

 人口流入自治体としてまず押さえるべきなのは、郡山市といわき市です。

 まず、郡山市。2013年9月17日、朝日新聞の記事が象徴的です。
「福島で人口トップは郡山市に いわき市を抜き東北2位」
 この記事が出た2013年9月頭の郡山市、「人口が32万8112人(前月比209人増)と、いわき市を119人上回り福島県内59市町村で最多となった。郡山市が県内トップになるのは1924年の市制施行以来、初めて。東北では仙台市に次ぐ2位になった」と言うんですね。

 郡山市は、県内ではいわき市に次ぐ2番目の人口規模を持つ市でした。ところが、その人口は、2011年3月から約2年間で1万1千人余り減った。

「やっぱり1万人以上も減ってるじゃないか! 福島の人々は放射能に怯え苦しみ、みんな逃げ出したがっているのだ!」

 はたしてそれだけが原因でしょうか。避難・転居した方も当然いました。しかし、記事は人口減少が一部の人の、そして一過性の動きだったことを続けます。

(それまで減少傾向にあった人口は)「今年4月から増加が続いている。市情報政策課は人口増加の要因として、市内への情報関連企業の進出や製造業による工場増設によって雇用が増えたことを挙げている」

 2013年4月から、雇用増などを背景に、人口増加が続いていると言うんです。

「どうせ、避難してきた人とか、復興関係の土木建設業で外から来ている人で増えているんだろ?」

 という方、ちゃんと元データを確認してからそういうことは言いましょう。記事にも最後にしっかり書いてあります。

「郡山、いわき両市には原発事故での避難者や事故対応作業のための滞在者が多数いるが、両市に住民登録をしていない人たちは両市の人口に含まれていない」

 ということです(なお、避難した方には、住民登録を移す人もいなくはないですが、避難元の自治体との関係が無いと行政の情報が入らないなど問題があるので、多くの住民は住民登録をしません。これについては、現状の制度では認められていない「二重住民票」の創設などが必要と主張する人がいます。ここでは詳細は割愛します)。

 そんなわけで、郡山市の人口の推移を見ていくと、3・11前である2011年3月頭に33万8858人いたところから、2年半ほど人口は減っていったわけですが、2013年9月頭には32万8112人となっていた。
 では、そこから1年たってどうなっているかというと32万9055人。つまり、人口増加傾向、まだ続いています。

「でも、震災前よりは少ないではないか!」

 そうですね。ただ、前回の記事を御覧頂いているならば、「だから福島は特異にとんでもない人口減少が起こっている」という結論にはなり得ないことは自明です。
 現在の日本社会は都会も地方も遍く人口減少に入っている。むしろ、相対的に見れば、そんな日本社会で一地方都市が人口増加傾向にあるということこそが特異な現象として注目されるべきでしょう。

 すなわち、「福島では人口が増えている」わけです。

郡山に抜かれたいわきでも、震災前より人が住む

 大袈裟な言い方ではありません。実は、「福島県」という単位での推計人口の推移を追っていくと、(3・11後ではなく)2010年5月からずっとマイナスだった前月比の人口増減の数が、2013年5月頭に3年ぶりにプラスになっています。 
 具体的に言うと、2013年5月の県内人口が、4月に比べて746人増えたわけですね。

 進学、転職・転勤、一度移住したけど戻ってきた人など、様々な人の動きがあった中で「福島から出る」より「福島に入る」ほうが明確に数値に表れました。その後も減少傾向は出ていますが、繰り返しになりますが、全国的な人口減少のトレンドと並べてみても特殊な動きはしていませんし、むしろ、人口維持傾向すら見えています。

 自治体で見ていくと、いわき市も興味深い人口の動きをしています。
 先に触れた記事では「長年、仙台に次ぐ、東北第二位の地方都市いわき市が郡山に追いぬかれた!」という事実が示されていました。
 いわき市は確かに郡山市ほど人口増加傾向が鮮明なわけではありません。ただ、やはり、特異な動きが出てきている。端的に言えば、

1)人口減少傾向は震災前からのトレンドに戻りつつある
2)人口増加率は震災前を超えた

 という特徴を持っています。
 わかりやすいのは「いわき市の人口」という資料の2ページ目(7枚目)にある、「いわき市人口の推移(平成元年~平成26年)」の図です。
 いわき市の総人口は、2000年代初頭の36万人ぐらいから弧を描くように落ちていきます。増加率もマイナスになるわけです。そして、2011年から2012年にかけて、一気に1万人ほど急落します。

 ところが2012年から2014年にかけて、人口は減りますが、増加率は一気に回復をします。V字回復して、震災前水準を超える勢いがあることはこの折れ線グラフからは明確です。そして、このグラフにもまた、避難者数・仕事での一時滞在者数は含まれていません。その数は様々な見積もり方がありますが、少なくとも1~2万人程度は確実にいる。
 となると、いわき市の人口もまた、現実には震災前よりも多くの人が住んでいる状況ができています。

「失われた20年」を取り戻させたバブル景気

「これだけ人口減少傾向にある日本社会で、人口増加するとは、とてもいいことではないか。新しい雇用の場ができたり地域も活性化しているのではないか」という話も出てきます。
 確かにそういう側面もありますが、実際は多くの問題がでてきています。

 一つは、急激な人口増加による問題です。

 現地住民の感覚として、道路、商業施設、病院などが震災前に比べて混み合っているという話はよく聞きます。ホテルなど宿泊施設も空室が少なく急に泊まろうとしても泊まれない状況が続いています。
 いわき市では昨年、はじめてカプセルホテルが出来ました。中はとてもきれいで、大きな風呂とサウナもあり、ぼくも愛用しています。

 何より、外から福島に行って困るのは、住居を確保しようにも家がないことです。これはいわき、郡山、あるいは福島市でもそうなんですが、避難してきた方、仕事で来ている方を中心に賃貸住宅がおさえられていて、便利なところにある賃貸物件は大体埋まっている。
 賃貸物件が埋まっているから仕方ない、と家を建てる人もいるが、土地もなくなってきている。

 これは具体的に数字にも現れています。例えば、地価の動き。2013年7月に発表された県による地価調査結果ではいわき、郡山は大幅上昇しました。これがどのくらいすごいかというと、いわきは17年ぶり、郡山は22年ぶりだということです。

 つまり、いわゆるバブルがあって、その後にきた「失われた20年」を取り戻しちゃったみたいなことが起こっているわけですね。

 もちろん、これは一時的なものだという見方が優勢です。賠償金やあらたな都市計画、研究施設や企業進出が一気に起こったゆえの「不動産バブル」が始まっているのは事実です。
 今後、時間をかけて需給バランスが調整されていくことになり、これもまた以前の通りの右肩下がりトレンドに戻っていくでしょう。

緩慢に起こるはずの変化を、原発事故が10倍速に

 ここでもう一つ指摘したいことがある。それが、今回の話で一番重要な点です。

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俗流フクシマ論批判

開沼博

311福島第一原発事故から3年以上経ちますが、今フクシマはどうなっているのでしょうか? いまだ具体的な数字や実態に基づかない情緒的な議論が溢れる中、この連載の目的は、フクシマの問題について「論理とデータを通した議論のベースの再設定」す...もっと読む

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コメント

tetsuo_kato 開沼さん本来の仕事なのか?という疑問はあれど、データから東北を見ていくのは重要だな、と改めて。 http://t.co/OqnsGJiKPP 4年弱前 replyretweetfavorite

nekoyasshiki いま福島に生まれている地域間格差とは、人口の「流入」自治体と「流出」自治体との格差。本来は今後20~30年かけて緩慢に起こるはずだった変化を10倍速で進行させてしまった、それが原発事故でした。 https://t.co/pKM9fWAveH 4年弱前 replyretweetfavorite

YUKI011407 鼻血や甲状腺の話よりこっちだぜ、と思ってる 緩慢に起こるはずの変化を、原発事故が10倍速に 4年弱前 replyretweetfavorite

kous37  人口20万を切る(イオンモールもできない)ような自治体の消滅が原発事故を契機に進んでいる 4年弱前 replyretweetfavorite