純化する魂と巨大な矛盾・森有正『遙かなノートル・ダム』2

岡田育さんより推薦していただいた森有正『遙かなノートル・ダム』評は第2回。前編は、森の思想の根幹にあった「経験」について触れました。人生の意味に集約される「経験」はどのようにして得られるのか。今回は森が重要視した「促し」という言葉を軸にして、その思想を探ります。

「経験」が提示される「促し」


遙かなノートル・ダム(角川文庫)

 森有正が言う、根底にある生活を深化させるものは何だろうか。何が体験を経験に変え、普遍的な価値となる定義を生み出すのだろうか。森は二つの契機を語る。一つは「促し」である。

 日本の歴史や社会で思想のありかたを問うとき彼はいつも、個人の内面に自然に発生する「促し」を基礎に置いた。表題でもある本書収録の「遙かなノートル・ダム」ではこう語っている。

しかし本当の経験の根源は自己の中にあり、自己を一個の人間として定義する基礎となる自己の中の促しにある。そこに本当の思想と経験との人とともに更新される新しさがある。そこに一人一人の人間が自ら責任を負いうる根拠がある。こうして体験は自己との戦闘を通して不断に経験へと転換されなければならない。人間的とはこういう人間の事態のことを言うのであろう。

 さりげなくここに現れる「促し」という言葉は、彼の思想の重要なキーワードである。『経験と思索をめぐって』(講談社学術文庫)収録の「経験について」では、もう少しかみ砕いて説明されている。

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