自分の免疫細胞にがんを攻撃させる
藤野英人(以下、藤野) 矢﨑さんの会社で提供している、免疫細胞を使ったがん治療というのは、あまりなじみのない方も多いのではないかと思います。まず、その説明をしていただけませんか。
矢﨑雄一郎(以下、矢﨑) はい。じつは、がん細胞って健康な人の体内でも、毎日約5000から6000個発生していると言われているんですよ。
藤野 そうなんですか!
矢﨑 でも、普段は免疫の力でがん細胞をやっつけているので、がんの症状が出ることはないんです。人間の体には免疫機能というものがあって、ウイルスなどの異物が入ってきたら戦う、というのはご存知ですよね。この機能はがん細胞にも効果があります。でも、免疫の力が弱まるとがん細胞が増えていくのを抑えられず、がんが大きくなってしまいます。そこで、免疫の力を活性・強化して、がんを攻撃させて治療するのが、免疫細胞をつかった「がんワクチン」です。私たちの会社ではその研究開発をすすめて、全国の医療機関に技術・ノウハウを提供しています。
藤野 でも、がん細胞ってもとは自分の細胞ですよね。それを免疫細胞に攻撃させることはできるんですか?
矢﨑 がん細胞は自分の細胞ではあるんですけど、当然ながら正常な細胞ではないんですよね。だから、正常な細胞とは異なる「目印(抗原)」をもっているんですよ。免疫細胞のひとつである樹状細胞はがん細胞を異物として認識することができ、がん細胞を捕食することでその目印を手に入れます。そして、その目印を他の免疫細胞に伝えることで、他の免疫細胞たちががん細胞を狙って攻撃できるようになります。
藤野 樹状細胞は、免疫システムの司令塔なんですね。
矢﨑 はい。だから私たちは樹状細胞を「ボス細胞」と呼んだりしています。免疫には入ってきたものを無差別に攻撃する「自然免疫」と、抗原に合った武器を備えて特定のものを集中的に攻撃する「獲得免疫」の2種類があります。樹状細胞はこの自然免疫と獲得免疫に「攻撃しろ」とか「攻撃するな」とかさまざまな指令を出すんですね。そして特にほかの免疫細胞に外敵を教える能力が優れているんです。
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