『嫌われる勇気』と『ぼんとリンちゃん』に通底する部分
岸見一郎(以下、岸見) 小林さんとの出会いは今年の春先でしたね。監督をされた『ぼんとリンちゃん』のパンフレットに原稿を書いて欲しいとの依頼を突然頂いたのです。
小林啓一(以下、小林) 『ぼんとリンちゃん』は、オタクのいわゆる「腐女子」と言われる女の子を主人公とした映画です。主人公はぼんちゃんという女子大生で、彼女と幼なじみのリンちゃんが親友を東京に救い出しに行くという話です。その親友は彼氏からDVを受けていて連絡が途絶えてしまった。最終的には見つけ出すんですが、彼女は風俗嬢になっていることがわかり、懸命に説得して連れ帰ろうとするんだけれど……という。
岸見 あの説得のシーンはとても印象的ですね。
小林 ありがとうございます。ただ、主人公ぼんちゃんの振る舞いがけっこう傍若無人に見えるようで、試写を観た人から「この主人公の気持ちがまったくわからない」的なことを言われました。僕はそういうつもりで作っていないので悩んでいたとき、書店で岸見先生の『嫌われる勇気』を偶然手に取ったんです。立ち読みで最初の数ページを読んだとき、「あ、これだ!」と思って買って一気に読んだところ、自分が映像で表現したかったことが文章ですごくわかりやすく書かれていた。この本に出てくる「哲人」なら、主人公のぼんちゃんの気持ちをわかってくれるはずだと思いました。そこでプロデューサーを通じて、岸見先生に解説を書いて頂けないかと連絡を差し上げたのです。
岸見 その頃はまだ『嫌われる勇気』への取材も今ほど多くない時期だったのですごく驚きました。作品のサンプルDVDも送っていただいたものの、「さぁ、どうしようかな」と。書評はしたことがありますが、映画評なんて初めてでしたから。それでとりあえず観させて頂いたところ、ぼんちゃんに打ちのめされてしまった(笑)。実に魅力的な作品でした。そこで、かなり時間は掛かったものの「夢見る人ぼんちゃん」というエッセイを書かせていただいたわけです。
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