月に行っても、幸せになれるわけじゃない

「月に行く」という壮大な夢を叶えたにもかかわらず、その犠牲になってしまった宇宙飛行士たち。しかも犠牲になったのは彼らだけではありませんでした。成功が人を不幸にするという現実を私たちはどうとらえればよいのでしょうか? 渡辺由佳里さんの新刊『どうせなら、楽しく生きよう』からの抜粋掲載、最終回です。亀田誠治プロデューサーとの対談もあわせてお読みください。

耐え忍ぶ妻たち

「月に行く」という壮大な夢の犠牲になったのは、オルドリンだけではなく、月に行った宇宙飛行士だけでもありません。宇宙飛行士の妻たちも犠牲者でした。

アポロ宇宙飛行士たちがハードな訓練に耐え、厳しい競争に打ち勝ち、死と背中合わせのリスクを覚悟したのは、自分たちの夢の実現のためでした。

でも、宇宙飛行士本人は、目標を達成すればその褒美として栄光を手に入れることができます。

それにくらべて、宇宙飛行士の妻たちは耐えるだけの生活でした。

安月給で幼い子どもたちを育て、忙しい夫の手を借りずに父親の役割まで果たし、国民の夢を壊さないように「完璧な宇宙飛行士の妻」を演じ続けなければならなかったのです。愚痴さえ自由にはこぼせなかった彼女たちの苦悩は、同じ体験を共有した人にしか理解できないものだったでしょう。

「夫がこの素晴らしいことを成し遂げたら、結婚生活はもっと魅力的で、有意義なものになるはず」—。

オルドリンの当時の妻だったジョアンは、そう信じてがまんし続けたというのですが、他の妻たちもそうだったに違いありません。

そう、「月さえ手に入れることができたら、きっと幸せになれる」と信じて努力してきたのは、宇宙飛行士の妻たちも同じだったのです。

なのに、月を手に入れて戻って来た夫たちは、親善旅行の先々でヒーロー扱いされ、宇宙グルーピーに取り囲まれ、浮気をしたり、愛人を作ったりして、妻子を顧みようとしなかったのです。

アポロ宇宙飛行士の「その後」を取材したアンドリュー・スミスの表現を借りると、彼らの離婚率は「天文学的」でした(邦訳『月の記憶』、ヴィレッジブックス)。離婚こそしなかったものの、チャーリー・デュークの妻ドティはうつで自殺を考えたといいます。

そういった葛藤から立ち直るために、デュークとジム・アーウィンは宗教に救いを求めました。

成功によって不幸になるという現実

アポロ宇宙飛行士たちの逸話は、オリンピックの金メダリストたちの「その後」を連想させます。

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どうせなら、楽しく生きよう

渡辺由佳里

「常識」に押しつぶされて、後悔やストレスを感じながら暮らしている人にエールを送る、渡辺由佳里さんの新刊『どうせなら、楽しく生きよう』の内容を抜粋公開していきます。元東京事変の亀田誠治プロデューサーとの対談もあわせてお読みください。

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コメント

Swatweetz 成功の裏にある不幸を推して知るべし 約3年前 replyretweetfavorite

rie_loves_tabi "幸福感と達成感は一時で、すぐ前の状態に戻る。普段の自分が幸せでなければ幸せにはなれない" 約3年前 replyretweetfavorite

yutarotter 「壮大な夢が人びとを不幸にしたわけでもありません。夢の実現に過剰な期待をかけることで、ふだんの自分と周囲の人びとの幸せをおろそかにしたことが問題だったのです。」 https://t.co/kbMfC0JK4Q 約3年前 replyretweetfavorite

rhiroko ――最終回。大事なのはふだんの幸せ。 約3年前 replyretweetfavorite